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60話★

 翌日、昼休みに入ると、俺は遼たちと一緒に学食に来ていた。


「意外に龍泉寺のやつ、支持率高いのな」

 昨日発行された学内新聞を見ながら遼が呟く。

 遼は昨日学校に来ていなかったから、ついさっき中間支持率の結果を知ったのだ。

「うん、結構厳しい戦いになっているよ」

 昨日は櫻木さんと一緒に今後のことについて話し合ったが、結局は良案が思いつかなかった。今までと同様、地道に選挙活動を行っていくしかない。

「龍泉寺陣営は野球部やバスケ部といった大人数の部が協力しているのも大きいわねー。こういった部が協力するとやっぱり組織票が桁違いだから」

 さすが学内新聞を発行した新聞部に所属する七海だ。そのあたりの事情についてはとても詳しい。

 俺たちがうんうん唸っていると、志藤さんがふと気づく。

「ねえ、そういえば牧原さんは?」

「あれ?」

 そう、いつも一緒にご飯を食べている牧原さんがこの場にいなかった。

「ああ、友愛ならなんかちょっと用事があるって、どこかに行ったぜ。すぐ終わるって言っていたからそろそろ戻ってくるかも――――」

「ご、ごめん……」

 ちょうどいいタイミングで牧原さんが戻ってきた。

 俺たちは事前に確保していた席を牧原さんに譲る。


「遅れてごめんね」

 席に座ると、牧原さんは申し訳なさそうに謝った。

「全然。遼から聞いたけど、何か用事があったんでしょ?」

「う、うん……。ちょっと後輩から相談を受けてて……。で、そのことでみんなに聞いてほしいことがあるんだけど……」

 牧原さんが声を潜める。どうやら内密な話のようだ。

「えーっとね。さっき、吹奏楽部の後輩から相談を受けていたんだけど……」

 俺はちらっと遼を見た。

 すると、遼は俺の疑問を感じ取ってくれたようだ。

「ああ、友愛は生徒会に入るまで、入学当初から吹奏楽部に入っていたんだ。たぶんその頃の後輩だと思う」

「あ、うん……。そうか、桂くんは最近転校してきたから知らなかったよね」

「ごめん、話の腰を折って。牧原さん、続けてもらえる?」

「うん、じゃあ続けるね。その後輩の相談なんだけど、実は、吹奏楽部が不正会計を行っているんじゃないかって不審に思っているらしいの」

「「「「えっ⁈」」」」

 その場にいる全員が思わず声を上げた。


 牧原さんは続ける。

「そのきっかけは一昨日のこと。その子、部活前に自主練をした後、偶然二年の教室を通りかかった時に龍泉寺くんや野球部の人が話しているのを聞いちゃったらしい。そして、その会話の内容が不正会計に関するものだったって言ってた」

「友愛、もしそれが本当だとすると……」

 遼が顔を引きつらせる。

「彼らの目的は、生徒会長になった後で、その不正会計を揉み消すことね」

 俺や七海も志藤さんと同じ答えに行き着いていた。


 星華学園生徒会の仕事の一つに、各部の会計報告書の適性を検査することがある。いわゆる会計監査だ。そしてその会計監査は、次期生徒会が前期における各部の会計報告書について行う。つまり、今回の選挙で龍泉寺が生徒会長になれば、自分たちが虚偽の記載をした会計報告書の適性について自ら検査することになるのだ。

「しかも、龍泉寺の話し相手が野球部となると、その野球部も不正会計に関与している可能性が大きいわ。もしかしたら、その関係で今回も龍泉寺を応援しているのかもしれない」


 俺はぐっと拳を握りしめた。

 櫻木さんはこの学園のために生徒会長になろうとしているにも関わらず、彼らはそんな利己的な目的で選挙活動をしていることに腹が立った。

 そんな彼らのせいで昨日、彼女があんなにも傷ついたことに、腸が煮えくり返りそうだった。

「で、でも、証拠がない……」

 そう呟く牧原さんの声は暗い。

 たしかに不正会計については、牧原さんの後輩がそう言っていただけで、他に物的な証拠があるわけではない。もし、俺たちが不正会計について言及したとしても、龍泉寺たちは知らぬ存ぜぬを突き通すだろう。


 それに問題はもう一つある。

 それは、時間がもうほとんど残っていないということだ。今日は選挙期間開始から四日目。明々後日たる木曜日には投票日を迎える。彼らの不正会計について調査をするにしても、残り二日でその全容を解明しないといけない。

「せめて、裏帳簿みたいなものがあればな」

 遼が歯嚙みする。

 すると、俺は遼の言葉に妙案が浮かんだ。

「志藤さん、ちょっといい?」

「えっ、なに?」

 俺は志藤さんに顔を近づけ、遼たちに聞こえないよう耳打ちする。

「――――ってことなんだけど、できそう?」

「そんなこと、よく考えたわね。……桂くんが言っていたことだけど、たぶん可能だと思う」

「やった」

 俺は志藤さんの肯定に思わず声を上げてしまった。


「え、ちょ、どゆこと? 二人だけで話をすすめないでってば」

「か、桂くん、なにか考えがあるの……?」

「今から説明するよ」

 俺は顔をよせた。

 すると、みんなも顔をよせる。


「――――ってわけなんだけど」

 俺は作戦の大枠をみんなに説明した。

「桂君、そんなこと、本当にできるの?」

 話し終わると、七海が真剣な顔で俺に訊ねてきた。

 俺は、志藤さんに視線を送る。

 こちらの視線を感じると、志藤さんはゆっくりと頷いた。

「ええ、できるわ」

 七海が志藤さんをじっと見つめた。まるで志藤さんを試しているかのようだった。

 少しの間、七海は志藤さんを見つめて、やがて、

「わかったわ。それなら桂君の作戦にのってあげる。わたしとしても、不正会計について記事にできるのはおいしいしね」

 背もたれに体重を預ける。

「なんか面白そうだな」

 遼もにかっと笑った。

 俺はみんなを見渡した。

「それじゃあ、みんなには迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼む」

「おう」

「ええ」

「らじゃ」

「うん」


 こうして、龍泉寺たちの悪事を暴くべく、俺たちは動き出したのだった。


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