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54話★
「桂くん、お疲れ様です」
朝のホームルームが近づいてきており、校門を通る生徒も少なくなったので、俺たちは演説を終了することにした。
櫻木さんは事前に自販機で買っていたのか、ペットボトルのお茶を手渡してくる。
「ありがとう。えっと、何円だった?」
お茶の代金を支払うべく、ポケットにしまっていた財布を取り出す。しかし、櫻木さんは手を置いてそれをとどめた。
「いえ、これは私からのお礼なので、桂くんからお金をもらうことはできません」
「えっ、でも、そんなのわるいよ」
さすがに女の子におごらすわけにはいかない。だから俺も食い下がる。
「ふふ、桂くんも意外と頑固なんですね。わかりました、それでは私はこのお茶をあげますから、桂くんの力で私を生徒会長にさせてください。私を選挙で勝たせてくれること、これがお茶の代金です」
どうですか、と櫻木さんが笑って尋ねる。
これ以上このやりとりを続けても堂々巡りになりそうだ。ここは素直に折れよう。
「わかったよ。それなら、このお茶はありがたくいただくね」
そうして櫻木さんからもらったお茶は、格別においしく感じた。




