52(8)話
帰宅した後、七海は制服のまま、自分の部屋にあるベッドに寝っ転がった。白い天井が目の前に広がる。
「私、初めてあんな素直な感情を出したな……」
今日の公園での出来事を思い出す。朝の時点ではこうなるなんて全く想像できていなかった。いつものように明るくクラスの人気者を振る舞って、夜には怪異を討伐する、そんな日常が繰り返されると思っていた。
それを変えてくれたのは彼だ。彼が昨晩のことを聞いてきたとき、なぜか自分のことを話してみようと思った。だから、公園まで移動した。
話してみて自分でも驚いた。自分の過去、感情がするすると口から出てきた。学園でも自分はよく話すが、大抵、その背後にはそんな自分を客観的に見ているもう一人の自分がいる。
この言葉を言ったら、友達はどう思うかな。
自分がこう話したら、相手はこう返してくるかな。
常にもう一人の自分と心の中で会話をして、自分の話す言葉を決める。口から出る言葉を推敲する。
でも、今日はもう一人の自分がいなかった。ありのままを話していた。そして、話してみたらすっきりした。
いや、すっきりしたのは自分がありのまま話したからだけではない。
それよりも、彼が自分にかけてくれた言葉だ。
彼は一度も自分を否定しようとはしなかった。常に肯定してくれた。あまつさえ、自分が自分を卑下しようといたら、ちょっと怒っていた。そして、こんな自分に協力してくれると言ってくれた。
とても嬉しかった。
とても温かかった。
「うう……」
制服にしわが付くのも厭わず、ベッドの上でゴロゴロと転がる。顔が熱い、心臓も忙しなく動いているのが伝わってくる。
「ああ……、もう……」
この後、結局、彼のことが頭から離れなかった。




