44話★
七海と牧原さんが電車通学で自転車を学園に持って来ていなかったので、俺たちは歩いて向かうことにした。学園から俺の家まではそう遠くはなく、徒歩でも十分通学できる距離だったので問題はない。
「それにしても、昂輝の家ってどんなだろーな」
俺の斜め後ろで牧原さんと並んで歩いていた遼が呟く。
「いや、普通の一般家庭だよ」
うん、まあ表向きは普通の一般家庭だ。そう、表向きは。
そんな俺の返答に、魔導師一家という事情を知る志藤さんは小さくクスっと笑った。
「でも、桂くんの家、楽しみ。私、人の家に行くことがあまりないから」
「ゆーちゃんは、遼一筋だもんね~」
七海はそんな牧原さんに後ろから抱きついていた。牧原さんが、もうやめてよ~、と言いながらされるがままになっている。
「なんだかんだ言って、俺たち、中学の頃からつるんでいるのに、七海の家には行ったことがないよな。家で遊ぶときだって、俺か友愛の家だし」
遼が手を頭の後ろに組みながら呟く。
牧原さんは、たしかにねー、っと遼に同調していた。
「わたしの両親が厳しくてねぇ。家に友達を呼ぶことができないのよ」
七海が申し訳なさそうに笑う。
だが、仕方ない。彼女も魔導師の家系だ。七海自身、遼たちに自分が魔導師であることを隠しているし、彼らに見せられないものがたくさんあるのだろう。
七海も大変だな。
「ま、それよりも今は桂君の家よ。ね、桂君の家は何人家族?」
「四人だよ。両親と俺、そして妹が一人いる」
「あー、昂輝ってなんかお兄ちゃんっぽいから、なんだか納得するな」
「うん、妹に優しいお兄ちゃんって感じがする」
「そ、そうかな?」
あまり褒められたことがないのでどうしても照れてしまった。
「ね、ね、その妹ちゃん、年はいくつなの?」
「今年で八歳だよ。小学二年生」
その瞬間、七海が目をキラキラと輝かせた。
「えー、絶対可愛いじゃん。今日はいるの? いるの?」
七海の食いつきっぷりに、たじたじとなる。
「たぶん、いると思うけど……」
「はあ~。さらに楽しみになってきたわ~」
いや、ちゃんと勉強をしてほしいのだが……
そんなこんな話しながら歩いていると、あっという間に俺の家についた。
みんなにちょっとそこで待つよう言い、玄関の扉を開ける。
すると、玄関の奥にはいつかの時と同じように母さんがいた。うん、圧倒的既視感。
母さんと俺が動き出したのは同時だった。
俺は母さんの両肩を掴み、これ以上進ませないようにする。
「あら? こうくん、なにするの?」
「母さんこそ、な・に・し・よ・う・と・し・た・の?」
「お母さんは、こうくんが女の子を三人も連れてきたから、抱きつこうとしただけよ」
何が悪いの? といった感じで首を傾げる母さん。いや、だからいきなり抱きつこうとする癖をどうにかしてほしい。
「母さん、それよりも今日はみんなで勉強会をするから、今から友達を家にあげるね」
「もちろんいいわよ。それじゃ、キッチンにお菓子とジュースを用意しておくから、後から取りに来なさい」
そうして、母さんはキッチンの方へ向かっていった。
「じゃあ、ごめん、ちょっといろいろあったけどあがって」
遼たちは目の前で繰り広げられていたやりとりに呆気にとられていた。
「なんか、昂輝のお母さんって面白い人なんだな」
「桂君がしっかりしている理由がわかった気がするわ」
「うんうん」
遼、七海、牧原さんが三者三様の反応をする中、俺は玄関に入るよう促す。
遼たちはお邪魔します、と言いながら家に上がった。




