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42(7)話

「……えっ?」

 意味が分からず、足が止まる。


 ヒーン……、ヒーン……

 ヒーン……、ヒーン……

 ヒーン……、ヒーン……

 ヒーン……、ヒーン……


 鳴き声の数は次第に増加していく。

 嫌な予感がした。さっきから体の震えが止まらない。


 ヒーン……、ヒーン……

 ヒーン……、ヒーン……

 ヒーン……、ヒーン……

 ヒーン……、ヒーン……


 背中からも小刻みな振動を感じた。七海が怯えているのだ。

「きた……」

 彼女が呟く。その声は絶望に満ちていた。

「な、なんだ、なんだっ⁈」

 床に這いつくばっていた男もおどおどしていた。

「なあ、一体何が来たんだっ⁈」

 焦り、不安、恐怖、俺は気持ちの整理がつかないまま、後ろにいる七海に語気を強めて問うた。

 現状を知りたくないという思いもあった。知ってしまったら、理性が持たなくなる気がなんとなくしていた。しかし、どうしても聞かずにはいられなかった。


「……窓に近づいてみて」

 七海が力なく答える。

「窓……」

 つまり外を見てみろ、と彼女は言っているのだ。

 俺は窓へと近づく。近づくごとに心臓の鼓動が早くなり、呼吸は荒くなっていく。

 この校舎が古いからか、それとも七海と怪物との戦いによってかは分からないが、どの窓も荒々しく割られていた。

 俺は数ある割れた窓のうちの一つに顔を近づける。そこから、外へと視線を向ける。


「――――ッッ⁈」


 直後、俺は驚愕のあまり目を大きく見開いた。

 この廃校は森の中にある。そのため、校舎の周りをぐるりと、うっそうと茂る木々たちが覆っている。当然、ここから見える風景も乱立する木々しか見えないはずだ。

 しかし、今回はそれだけではなかった。

 日の光はなく、見る者に恐怖を与える夜の闇の中で赤い光が俺たちを貫いていた。その数は膨大で、至るところに点在していた。

 何かがいる、その赤い光がそう知らせてくれた。

「あっ……、あっ……」

 うまく言葉が出せなかった。

 俺が言葉を失っていると、闇夜の中からそいつらが姿を現した。


 猿の顔に、狸の胴体。前後の足は虎で、尾は蛇。

 俺はそいつの名前を物語の中でしか聞いたことがない。人村を襲い、女子供を貪り食う空想上の魔物――――(ぬえ)


 一体が姿を現すと、もう一体、さらにもう一体と、次から次へと鵺たちの姿が露わになる。

 森の中から姿を見せた何匹もの鵺たちが校舎を包囲するようにずらりと並ぶ。どの個体も荒々しく息を吐き、赤い瞳をぎらつかせながらこちらを睨みつけてくる。

 無意識に足が後ろに下がった。


「やっぱり……、さっきの鳴き声は、仲間を呼ぶためのものだったか……」

 背中から七海の悔しそうな声が聞こえてきた。

「い、一体、どうすれば……」

 鵺たちに囲まれ、動揺が隠せない。言葉を詰まらせながら、背中の七海に問いかける。

 その直後――――、


 ヒーーン


 一匹の甲高い鳴き声が周囲に響き渡った。


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