42(6)話
「大丈夫ですかっ⁈」
俺は勢いよく教室の扉を開けた。
叫び声がしてからも俺はあの場所でとどまっていたが、しばらくしてようやく覚悟を決め、ここまでやってきた。
さっきまでこの教室から聞こえていた気味の悪い鳴き声は、もう止んでいる。
「っっ⁈」
扉を開けた瞬間、室内の惨状に思わず顔をしかめた。
大量の血液が床を染め上げ、すぐ目の前には、かつては人だったような肉塊が二つ転がっている。鉄の匂いと臓物の匂いとが入り交じった強烈な香りがあたりに充満している。
あまりの気持ち悪さに急な眩暈におそわれ、胃から何かが這い上がってくるのを感じた。
「んっ」
喉元まで這い上がってきたそれを無理やり押し戻す。気を失わないように、しっかりと両足に力を入れた。
こんなところで倒れている場合ではない。すぐさま、あの叫び声の正体を確認しないと。
俺は教室をぐるりと見回す。
「……っっ、七海⁈」
教室の奥には見知らぬ男性とよく知ったクラスメイトの姿があった。すぐさま、彼女たちの下へ駆け寄る。
「大丈夫か、って、すごい傷……」
彼女の右足からはどくどくと赤い血が流れ出していた。心配になって彼女の顔を覗き込む。
すると、彼女は苦痛に顔を歪めながら、
「は、はやく逃げて……」
そう俺に訴えかけてきた。しかし、俺には彼女の言っている意味が分からなかった。
この教室の荒れ具合を見た感じ、ここで戦闘があったのは明らかだ。おそらく、以前自分を襲ってきたような怪物と七海とが戦ったのだろう。でも、この場には七海と男性の二人しかいない。ということは、怪物たちは七海が全て退治したのではないか。だとしたら、もう安全なのではないか。
しかし、七海は息を切らしながら、俺の服を掴んでくる。血にまみれたその手が衣服を汚す。
「わ、わたしを置いて……、早く……」
彼女は焦っているように見えた。まるでまだ悪夢は過ぎ去っていないかのように。いや、これから悪夢が到来しようとしているかのように。
「な、なあ、お、俺も助けてくれっ」
隣の男が這いつくばりながら懇願してきた。七海にばかり気をとられていたが、そういえば、ここにはもう一人いたのだった。
視線を少しずらし、男の状態を確認する。
一見したところ、当人に怪我などはない。これならば自力で移動できるだろう。
それよりも七海の方が問題だった。この出血量ではできるだけ早く治療を受けさせた方がいい。
「あなたは自分の足で逃げてください。俺は、彼女をおぶっていきます」
そう言って、彼女を背中に担ぐ。男が、そんなぁ、と言っていたが無視をした。
「な、なにしてんの……。わたしを置いて……」
「そんなことできるわけないだろ? さ、はやく」
彼女の声が背中から聞こえてきたが、構わず俺はそのまま、ここから避難しようとした。
そのとき――――、
ヒーン……、ヒーン……
ヒーン……、ヒーン……
あの不気味な声が至るところから響いてきた。




