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42(5)話

「……ふう」

 最後の一体が床に伏したのを見届けて、七海は小太刀を鞘にしまう。これでここに巣くっていた鵺たちは退治し終えただろうか。


 彼女は戦いの最中ずっと怯えていた男の下に近づく。

「あ、ありがとう……、た、助かった……」

 男は半べそをかきながらお礼を言った。

「気にしないで。これが私の役目だから」

 七海は男を見下ろしながらそう返答する。

「ねえ、歩ける? 町の方まで送るけど」

 しかし、男は情けなさそうに目線を下げた。

「い、いや、それが腰が完全に抜けちゃって……」

 見ると男の身体は小刻みに震えている。

「はあ……」

 七海は面倒くさそうにため息を吐いた。早くここを離れて、お目当てのあいつを探しにいきたいのだが、一般人をこんなところに放置するわけにもいかない。

「な、なあ、嬢ちゃん……、きみは一体……」

「……」

 男が何か問いかけようとしたが、七海は無視してポケットからスマホを取り出した。

 とりあえず、ここでの惨状を警察に連絡しなくてはならない。この男もついでに警察に保護してもらえばいいだろう。

 そうして、一一〇番を押そうとしたとき、


「――危ないッ」


 七海はスマホを投げ捨て、男を突き飛ばした。

「えっ?」

 男が間抜けな声を上げる。同時に、彼女の右足を焼けるような痛みが襲った。

「ッッ」

 激しい痛みに七海の表情が歪む。彼女はすぐさま背後へ振り返った。

 自分の右足には蛇が嚙みついていた。蛇の鋭い牙が自身のふくらはぎにめり込んでいる。

「ちっ、まだ生きていたか……」

 その蛇は鵺のしっぽだった。最後に斬って捨てた鵺は、身体をボロボロに瓦解させながらも、一矢報いようとこうやって尻尾を使って彼女に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 彼女の右足からどくどくと赤い血が流れだしてくる。


「くっ」

 七海は小太刀を鞘から抜き取ると、勢いよく振り払った。バシュッという音ともに、蛇のしっぽが切断される。彼女は痛みに顔をしかめながら、噛みついていた蛇を引っこ抜いて放り投げた。

 尻尾を切断された瞬間、鵺も悲鳴を上げるが、すぐさま、七海たちを睨みつけた。もう、その体はほとんど崩れ落ちているのに、赤い瞳には未だ闘志の色が残っている。

 七海はいつまた襲われてもいいように小太刀を構える。

 しかし、鵺は、


「ヒーン……、ヒーン……」


 突如、声を挙げて鳴き始めた。

 その声は教室にとどまらず、割れた窓から外へと鳴り響く。


「ヒーン……、ヒーン……」


 鳴いている間も鵺の体はどんどん崩れ落ちていく。

「い、いったいどうしたっていうんだっっ」

 死を目前にして鳴き続ける鵺に不気味さを感じたのか、男がうろたえながら叫んだ。


「ヒーン……、ヒーン……」


 七海は真剣な目つきで鵺を凝視する。

 鵺はもう満身創痍のはずだ。体の大部分を失い、後は頭部を残すのみとなったやつに、ここから反撃をする術はない。

 しかし、七海は妙な焦燥感に駆られていた。


「ヒーン……、ヒーン……」


 まるで、誰かに助けを請うように、鵺は一心に鳴き続ける。

 そのとき、七海の頭の中に一つの可能性がよぎる。

「ま、まさか……」

 鵺の思惑に気が付いた彼女の顔に絶望の色が宿る。

 直後、鵺が役目は果たしたと言うかの如く、完全に消滅した。


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