42(3)話
「……」
木の陰から七海の様子を窺う。
どうにかここまで、彼女を見失うことなく追いかけることができた。実際に追いかけてみて、やっぱり彼女の足は速いと思い知った。ここまで彼女を追いかけることができたのは、単に運が良かっただけだろう。
「ここか……」
七海は俺の視線の先で背を向けて佇んでいた。
彼女の前にあったのは校門だった。その奥にはボロボロの建物がいくつか建っている。どうやら、ここは廃校になった小学校のようだった。
夜間の学校はしばしば怪談の舞台となるが、それが廃校となれば、さらにその不気味さには拍車がかかっていた。
建物から光が発せられることはなく、人の気配が全くない。あたりから聞こえるのは、虫の鳴く声ばかり。
七海は小太刀を鞘から抜き取る。
そして、凛と響き渡る声で、
「【接続】――」
その詞を口にする。
直後、漆黒の粒子が彼女を覆い始める。
「――――《異なる者よ、我が世界から消え失せよ》」
彼女の小太刀に漆黒の粒子が収束する。
その様子を見て、先日のことを思いだした。
彼女の小太刀で斬りつけられた生き物たちは、体中に罅が入っていった。そして、体がボロボロと崩れていった。まるで、一太刀浴びた瞬間から死が運命づけられていたようだった。
一撃必殺の魔剣――そう形容するのが彼女の魔導を表すのにぴったりだろう。
七海は小太刀を強く握りしめると、校門をくぐる。すぐに彼女の後姿は見えなくなった。
「さて、ここからどうするか、だよな……」
彼女が門の奥に消えてからも、俺はその場で二の足を踏んでいた。
正直、さらに彼女を追いかけたい気持ちはある。しかし、彼女は先ほど小太刀を抜き、魔導を使った。
つまり、ここから先では戦いがいつ起こってもおかしくない、ということだ。
俺も彼女を追いかければ、あの変な生き物たちに出くわすかもしれない。また、あいつらに襲われるかもしれない。
これまでは運が良かったから助かったものの、次はどうなるか分からない。今度こそ、あいつらに殺されてしまうかもしれない。
ここに来て、急に怖くなった。
少し冷たい夜風が頬を撫でる。冷たい夜風がよぎった瞬間、ビクッと肩が震える。
そうやって、校門を前に怖気づいていると、
「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
校舎の中から叫び声が響き渡ってきた。




