42(2)話
体育祭の日も放課後には志藤さんがうちに来た。
彼女はいくつも競技に出て疲れていたはずなのに、いつもと変わらず、母さんから魔導の指導を受けていた。
そうして、魔導の訓練が終わって、これまたいつものように俺は彼女を家まで送り届けたのだった。
志藤さんは玄関の扉を開けると、こちらへと振り返る。
「……今日も送ってくれてありがとう」
「ううん、全然大丈夫だよ。それよりも、今日もお疲れ様。なにも体育祭の日まで練習することなかったのに」
しかし、彼女はゆっくりと首を振る。
「いいえ、そんなことできないわ。私は早く魔導を使いこなさなければならないもの」
その瞳には確固たる信念みたいなものが見てとれた。やはり、過去に友達を傷つけたことを後悔しているのだろう。
「わかった。でも、今日は特にゆっくり休んでね。体も疲れているだろうし」
「ええ、そうするわ。ありがとう」
「それじゃあ、また明日」
「また明日」
そうして、彼女は扉の奥へと姿を消した。
ドアが完全に閉まるのを見届けてから、彼女の家を後にする。
最近、夜になるとようやく涼しくなってきた気がする。日中はまだ残暑という言葉が似合うが、この時間帯になれば秋の訪れを感じることができた。
「さて……、帰りますか」
誰にもなく呟く。
すると、不意に見知った人影が目の前の道路を過ぎ去った。
「あれは……、七海?」
一瞬ではあったが、あれはおそらく、クラスメイトの七海だった。
彼女は黒衣に身を包み、腰には二本の小太刀を携えていた。
もしかして、彼女はまたあの変な生き物たちを倒しに行くのだろうか。
――――彼女を追いかけよう
自然とそんな欲求が湧いた。
彼女を追いかけることで、何か分かるかもしれない。
そんな風にひとたび湧いた欲求は自分の中で一気に膨れ上がっていく。
「よし、追いかけよう……」
そうして、俺は彼女の後を追いかけることにした。




