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39話★

 午後の部が始まってからいくつかの競技が行われた。

 現在、白組の順位は赤組に続いて二番目。残りの得点競技は男女混合リレーのみであるため、この競技の結果によって勝敗が決まることになる。


『これより、男女混合リレーの招集を始めます。参加する生徒は入場門付近に集まってください』


 遼や七海たちと談笑していると、招集の開始を告げるアナウンスが流れた。

「あ、もうそんな時間か」

 ゆっくりと、七海が席を立つ。

「それなら、わたしはそろそろ行ってくるわ~。二人とも、ちゃんと応援していてよ」

「おう、がんばれよ」

「頑張ってな」

 七海はリレーの選手だ。まあ、あの百メートル走での走りを考えれば当然のことだろう。

「他には……、そういえば志藤さんも出ていたな」

「そうね。見る限り、ここのテントにはいなさそうだから、もう入場門に集まっているのかも」

七海の言う通り、テント内に志藤さんの姿はない。

「じゃ、行ってくるわね~」

 七海は手を振ると、入場門の方へ歩いて行った。


「それにしても、さっきの昼休みはすごかったな」

 七海の姿が見えなくなると、遼が昼休憩での出来事を振り返る。

 星華学園の学食は、体育祭の日でも開いている。お弁当などを持ってきていない俺たちは当然、学食を利用することにしていた。

「ああ、まさか、あんな大勢の生徒に囲まれるとは思わなかった」

 そう、学食で俺たちは多数の生徒に囲まれ、矢継ぎ早に質問を受けた。

 質問の内容はもちろん、櫻木さんと一緒に二人三脚に出ていたことについて。

 今までスキャンダルらしいスキャンダルがなかった櫻木さんが、つい数週間前に転校してきた俺とあのカップル専用みたいな競技に出たことで、全校生徒の注目を集めたのだ。


「でも、昂輝が櫻木さんと一緒に走ったのは、俺も正直驚いたぜ。たしかに、生徒会の仕事をここ最近手伝っていたから仲良くはなっていたけどな」

「ああ。俺も最初、櫻木さんから誘われた時は驚いたよ」

「櫻木さんも嬉しそうに走っていたからな~。あの表情を見て、女子は色めき立つし、男子は殺気が立っていたな」

「あはは……」

 質問をしてきた男子たちの般若のような形相を思い出し、空笑いを浮かべる。正直言ってあのときは身の危険を感じた。

「で、本当に櫻木さんとは付き合ってないのか? さっきは否定していたけど」

「ったく……。ああ、みんなの前で言った通りだよ。俺と櫻木さんは付き合っているわけじゃない」

「あんなに楽しそうな櫻木さん見たことないぜ? だからみんなも最初、昂輝が否定してもなかなか納得しなかったんだし」

「楽しそうだったのは嬉しいけど、本当に付き合ってない。俺が仲良くしてもらっているだけだよ」

「またまたご謙遜を」

「そらそうだろ。遼みたいなイケメンならともかく、俺みたいな普メン、櫻木さんが好きになるはずない。それぐらいはわきまえているよ」

 なにせ彼女は、顔よし、器量よし、さらには性格よしの完璧超人だ。たしかに、あの倉庫の一件以来、彼女と仲良くなったと思うが、俺もそこまではうぬぼれていない。

 櫻木さんのスペックと自らのそれを頭の中で比較していると、隣で遼がため息をつくのがわかった。


「昂輝ってもしかして卑屈なん?」

「いや、卑屈ってわけじゃないって。客観的に見た通りだろ」

「うーん、少しは自信もってもいいと思うけどな~」

「はいはい、おいおい頑張るよ」

「おいおいって……。まあいいや、なんだかんだいってみんなも昂輝たちが付き合ってないってこと信じたみたいだしな。あれは信じたというよりも信じたいって感じだったけど」

「納得してもらえたのは良かったけど、誤解を解くのに結構時間がかかったな。おかげで昼食べそびれた」

「途中で倒れるなよ?」

「できるだけ気を付ける」

「できるだけって……」


 そうして遼と先ほどの昼休みのことについて話していると、競技の終了を告げる音楽が流れてきた。

「えーっと、この後の競技は……」

 バッグからパンフレットを取り出そうファスナーに手をかける。

 しかし、チャックを開ける前に隣からパンフレットが差し出された。

「ほい、次は中等部女子のダンスだってよ。そして、その次が男女混合リレー。これが最後の競技だな」

「ありがとう。なるほど、リレーももう少しか……」


「遼っ、桂君っ」

 パンフレットを眺めていると、後ろから七海に声をかけられた。

「ん?」

 七海は先ほどまで走り回っていたのか息を切らしていた。

「どうかしたのか?」

 リレーの招集はとうに始まっている。それに、今の七海はどこか焦っているようだった。

「ねえ二人とも、志藤さんを見てない?」

「えっ、志藤さん、まだ入場門に来てないのか?」

「うんそうなの。係りの人と白グループの選手が志藤さんを探している。でも、まだ見つかってない」

 どういうことだろう。志藤さんの性格からして招集時間に遅れるとも思えない。

 ……もしかしたら、彼女の身に何かあったのだろうか。

「わかった。俺たちも志藤さんを見つけるのを手伝うよ」

 俺と遼が立ち上がる。

「うん、お願い。わたしは他のテントを見てくる」

 そう言い残すと、七海は他のテントに駆けていった。


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