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30(4)話

「……」


 俺は一連の様子に目が離せなかった。

 一瞬の出来事だった。彼女が詠唱を完成させてから一分も経っていない。そんな短時間で彼女は四匹もの人狼を沈めた。

 その手際、身のこなしは実に鮮やかで思わず見惚れてしまうほどだった。当初は恐怖で震えていた手も今は別の意味で小刻みに震えていた。

 すごい……、そんな陳腐な言葉が心の中で何回も反芻される。


 一方の彼女は、俺の視線に気がつかないまま、先ほど投げつけた小太刀を回収しに行く。

 彼女が小太刀のところにやって来る頃には、すでに人狼の体は完全に消滅していた。

 彼女は地面に転がる小太刀を拾い上げ、一度、血や土を落とすため勢いよく振った後、もう一本の小太刀と同時に鞘へと納める。

「さて、終わったかな……」

 彼女はそう呟くと、今度はベンチの方へ向かって歩いてきた。ジャリ、ジャリ、と砂を鳴らしながらゆっくりと近づく。やがて、あの遺体の前で立ち止まった。

 一体、彼女はどうするのだろうか。

 俺はそんな疑問を覚えながら、彼女の次の行動に注目する。


 彼女は遺体の前で立ち止まると、静かに目を閉じ、両手を合わせた。

「もっと早く来ていたらあなたを助けられたかな……。ごめんなさい……。せめて、安らかに眠れますように……」

 その口から出る声は悔しそうで、こちらにも彼女のやりきれなさが伝わってきた。

 少しして、彼女が瞼を上げる。そして、そっと遺体の首元に手を伸ばした。

「やっぱり……、あなたもか……」

 遺体の首元を凝視しながら、彼女は呟く。

 一体なんのことだ? 俺は彼女の言葉の真意が分からなかった。だが、彼女は遺体の首元にとても関心を寄せているようだった。

 首元の何かを確認した後、彼女はポケットからスマホを取り出し、誰かに電話を掛けた。すると、幾ばくもしないうちに遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

 サイレンの音を確認し、彼女はスマホをポケットにしまう。

「さて、次の獲物のところに行かないと……」

 そう呟くと彼女は公園から姿を消した。


 彼女が公園から立ち去った後、俺はこもっていたトイレからようやく外に出た。まだ興奮は冷めやまない。心臓だってバクバクいっているし、息もいつもより荒い。

 だが、今はすぐに確かめないといけないことがある。

 俺は遺体の側に駆け寄る。

 彼女は遺体の首元を凝視していた。そして、そこで何かを見つけ、意味深な言葉を発した。

 俺も遺体をよく見れば、彼女が見つけた何かを見つけることができるかもしれない。

 あの変な生き物、そして、七海のことをもっと知ることができるかもしれない。

 パトカーの音が近づいてきているのに焦りを感じながら、俺は、遺体の首元に着目する。

「……えっ?」

 そして、その何かを見つけた。


 ――――それは、首筋に浮かぶ、二つの赤い点だった。


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