25話
二章 第三
翌日。星華学園にて、
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
四時間目の終了を告げるチャイムがなった。これからは、全生徒がお待ちかねの昼休みだ。
チャイムが鳴って礼をした後、近くに七海がやってきた。
「ッッ⁈」
七海の姿を認めて背筋が反りたつ。
昨晩の出来事があってから、俺は今日、七海に幾度となく視線を向けてしまっていた。
七海は俺の席に来ると、耳元に顔を近づける。そして、いつも聞いている声とは真逆の底冷えする声で、
「わたしのことを不自然に見すぎ。――――死にたいの?」
誰にも聞こえないように、でも俺にはしっかり聞こえるように囁いてくる。
恐怖で体が硬直し、半分震えるように小さく首を振る。
そこに昼食を誘いにきた遼が合流した。
すると、七海はいつもの声音に戻って、
「ごめん、今日の昼休みなんだけど、わたし、新聞部の活動があって一緒に学食に行けそうにないの。だから、わたし抜きで行ってきてくれない?」
そう言って、パンっと両手を合わせる。
「……」
あまりの身の変わりように呆気にとられる。
七海はそんな俺を無視し、言葉を続ける。
「ほら、もうすぐ星華学園の体育祭でしょ? 新聞部はそれに向けていろいろと取材とかしないといけないから、今から部室に顔を出さないといけないの」
遼も七海の話を聞いて合点がいったらしい。俺の肩に手を置いてくる。
「そういうことだったら、俺は昂輝と学食に行ってくるわ」
「ありがとー、待っててね、体育祭前に特大のスクープを記事にしてあげるから♪」
そう言い残すと、七海は新聞部の部室に向かうべく、駆け足で教室から出ていった。
俺は七海の背中を無意識に追う。
彼女は昨晩のことを忘れろと言った。
あの様子からして、彼女にはのっぴきならない事情があるようだった。
本当なら、昨日の人狼のことや七海自身のことを色々と問い詰めたい。
しかし、彼女はそれを望んでいない。
それなら、これ以上、彼女の領域に踏み込むべきではないだろう。
幸い、俺が変な行動を起こさなければ、彼女は今まで通り接してくれるようだし。
俺は、これ以上、七海のことを追求せず、今まで通り過ごすことを固く決意した。
七海が教室からいなくなると、遼は座っていた席から腰を上げる。
「それじゃ、今日は二人で学食にいくか?」
「あれ、今日は、牧原さんはいないのか?」
いつも七海や遼の他に牧原さんともお昼を食べている。あの彼女大好き人間の遼が牧原さんと一緒でないのは珍しい。
すると、遼はポリポリと頭をかいた。
「あー、今日は友愛、生徒会の仕事があるんだとよ。ほら、体育祭って生徒会が主体的になって動かないといけないからな」
なるほど、それは納得だ。
ということは、櫻木さんもこの時期は忙しいのだろうか。ふと、転校初日にお世話になった彼女のことを思い出した。
「昂輝、早く行かないと昼休みが終わってしまうぜ」
「あ、うん、すぐ行く」
そうして、俺たちは学食へ向かうため、教室を後にした。




