23話★
志藤さんが靴を脱ぐと、俺は彼女を居間へと案内する。
俺の家は5LDK。一階にリビングやキッチン、お風呂に来賓を迎えるための居間がある。そして二階に俺の部屋と両親、ゆめの寝室、さらには寝室とは別に両親がそれぞれ自分の部屋を持っている。
両親の部屋がそれぞれあるのは、父さんの仕事や各自の魔導の研究に必要だからだ。ちなみに、魔導の失敗に備えて家のあちこちに結界を張っているため、普通なら家が吹き飛ぶような爆発が起きてもこの家はなんなく耐えることができたりする。
「はい、お茶よ」
母さんが志藤さんの前に入れたての緑茶を置く。俺にも用意をしてくれたが、なぜかその量は志藤さんと比べて半分もなかった。
俺が母さんをジト目で見ると、母さんはバツが悪そうにすっと目線をずらした。
もしかして、さっきの玄関での出来事を根に持っているのだろうか。我が母ながら姑息な手をしてきたものだ、と頭を抱えた。
「あ、ありがとうございます」
志藤さんは緊張しながらも母さんにぺこりとお辞儀をする。
母さんは俺と志藤さんの正面に座った。
「初めまして、昂輝の母の桂咲希です」
「あ、私、桂くんのクラスメイトの志藤綾女です」
「綾女ちゃんね。いつもこうくんがお世話になってます」
「い、いえ、こちらこそ……」
「……さて、こうくんが私に協力をお願いするってことは、魔導関連かな?」
母さんはお茶を一口すすると、こちらに視線を寄越してきた。その目は先ほどまでとは打って変わり、いたって真剣なものだった。
「……」
さすが母さんだと思った。普段はあんな変態……間違えた、ちょっと変わっているからわかりにくいが、勘はかなり鋭い。
俺はこくっと首を縦に振る。
「じつは今日―――――――」
そして、今日の教室で志藤さんが起こした現象を母さんに説明した。
幽霊を現出させたこと、俺がそれを解呪したこと。また、志藤さんが魔導を使えるようになった経緯も軽く話した。とはいっても、彼女にとってセンシティブな話もあったので、中学生の頃から突然使えるようになったとしか言わなかったが。
母さんはふんふんと俺の話を聞いている。
やがて、俺の話がすべて終わると、お茶をごくりと一口と飲んで湯呑を置いた。
「それは、明らかに魔導によるものね。それも暴走させたっぽい」
「魔導? 暴走?」
志藤さんは話についていけず困惑しているようだ。
「まあ、突然そんな事言われても難しい話よね。うーん、どうやって説明したらいいかなぁ」
「実際に見てもらったらいいんじゃない?」
「あ、そうね。それなら綾女ちゃん、ちょっと私の部屋に来てくれるかしら?」
「わ、わかりました」
「こうくんもね」
母さんがこちらにウインクを寄越してきた。
「母さんと志藤さんを二人きりにするのは危険だから、もちろんついていくよ」
「もう、お母さんのこと、信用してないのねぇ」
つい先刻、志藤さんに飛びかかろうとした自分の行動を振り返ってほしい。
そうして俺たちは、二階にある母さんの部屋に移動した。




