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22話★

「―――――で、そこの淫獣さんは、私を自宅に連れ込んで何をしようとしているわけ?」


 志藤さんの視線が怖い。

 俺たちは一緒に下校をしたが、下校途中は互いに言葉を一切発しなかった。いや、彼女の剣幕な様子に言葉を発することができなかった。

 あの後、俺は、志藤さんに色々と事情を説明して、なんとかここまで連れてくることができた。正直ここまで連れてくることができただけで奇跡だと言いたい。

 彼女がここまで警戒心をむき出しにするのもわかる。なにせ、クラスメイトとはいえ、今さっきまで全く話したこともなかった男子生徒にいきなり部屋へ来ないかと言われたのだから。


「……だから、変なことはしないって」

「ケダモノはみんなそう言って、連れ込むのよ」

 ……ですよねぇ。自分で言ってても、これは説得力ないなって思う。

「まあ、志藤さんのその力をどうにかするにはここに来てもらうしかないから。騙されたと思って、もうちょっと付き合ってよ」

「ごめんなさい、一旦携帯を取り出してもいいかしら?」

 志藤さんはスカートのポケットに左手を突っ込む。

「警察だけはやめてください。お願いします」

 俺は全力で頭を下げた。


 彼女は腕を組みながらため息をつく。

「はぁ~。まあいいわ。で、私はどうしたらいいの?」

「ちょっと待ってて」

 俺は玄関の鍵を開け、扉をひく。

「ただいま~」

「あら、こうくん、おかえりなさ……い?」

 玄関の中にはちょうど母さんがいた。

「あちゃー」

 母さんは固まり、俺は頭を押さえた。

 母さんの瞳は俺ではなく、その後ろ、志藤さんをきれいに捉えていた。

 直後、俺と母さんが動いたのは同時だった。

 俺は母さんの両肩を掴み、母さんの突進を食い止める。

「あら? こうくん、なにするの?」

「母さんこそ、な・に・し・よ・う・と・し・た・の?」

「私は、こうくんが綺麗な彼女さんを連れてきたから、飛びつこうとしただけよ」

 母さんは何が悪いのかわからないといった感じで首を傾げる。

 彼女と聞いた途端、志藤さんの顔がボっと茹で上がった。続いて、ブンブンとすごい勢いで首を横に振る。

「ちちちち、違います。私たちそんなんじゃありません」

 母さんの素晴らしい勘違いに嘆息する。それと彼女を連れてきたから抱きつくってなに?


「母さん、そもそも志藤さんとはそんな関係じゃないから。それと仮に彼女だとしても、いきなり飛びつかないで」

「えー、こうくんのケチー」

 母さんは口をとがらせて、ぶつぶつと不満を垂れた。

 うーん、これ俺が悪いのかな……

 ただここでそんなことを考えても無駄だろう。なにせ母さんだし。

「と、とにかく、ちょっと母さんにも協力してほしいことがあるから、居間に来て。俺は志藤さんの案内をするから」

「はぁい。じゃあ、お母さんは、二人分のお茶を用意するわね」

 それだけ言うと、母さんはキッチンの方へ向かっていった。

「な、なんか、桂くんのお母さんって強烈な人なのね……」

 志藤さんが若干引いている。

「う、うん……。ごめん、あの人のことは気にしないで」


 こうして、一苦労ありながらも俺たちは桂家に入ることができた。


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