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132話

 終章


「にい……、にいっ」

 隣から俺を呼ぶ声がした。

 閉じていた眼を開く。声のした方へ振り返ると、ゆめが隣に立って、こちらを見下ろしていた。

 かぐらを討伐してから一か月後、俺とゆめは母さんと父さんが眠るお墓に来ていた。

 母さんも父さんも遺骨はないけれど、代わりに二人の遺品を墓の中に入れた。

 合掌していた両手を離し、ゆっくりと立ち上がる。


「にい、ななちゃんが来たよ?」

「……そうか」

 彼女の来訪を伝えてくれたゆめの頭を優しく撫でる。ゆめは目を細めて、気持ちよさそうにしていた。

「じゃあ、ゆめ、向こうに行ってるね」

 ゆめはそう告げると、トタトタとこの場を離れていく。

 俺はそんなゆめの後ろ姿を目線だけ追いかける。


 かぐらによる傷は完全に癒えた。だから、今もこうして走れている。

 父さんと母さんが死んで、ゆめもかなり凹んでいた。しかし、志藤さんや七海、遼たちなどが毎日のように遊びに来てくれて、少しずつ立ち直ってくれているようだった。

 特に七海は、うちに泊まることもしばしばあって、夜泣きするゆめの側にずっといてくれた。だからか、最近ゆめは七海のことを「ななちゃん」と呼んで、姉のように懐いている。


「……昂輝」


 走り去るゆめの背中を見つめていると、声を掛けられた。

 ゆっくりと振り返る。

 そこにいたのは、すっかり冷たくなった冬の風にこげ茶色の髪をたなびかせる恋人だった。

「お兄さんへの報告は済ませたのか?」

 七海は石段を登り、桂家のお墓の敷地へと足を踏み入れる。

「うん、お兄ちゃんの仇はとったよ、って報告した」

「……そっか」

 そう言った彼女の顔はどこかすっきりしていた。

 長年追い続けていた兄の仇を自分の手で討伐することができ、兄にも報告できたことで、彼女の中で、一つの区切りがついたのだろう。


 七海はお墓の前まで移動すると、ゆっくりと腰を下ろす。

 俺も彼女にならって、腰を下ろした。

「それじゃ、改めてご両親にご挨拶をしようか」

「わるいな、わざわざ」

「ううん、あの日だってもともとは挨拶をする予定だったから……」

「……そうだな」

 二人して、合掌し、瞼を閉じる。


「改めまして、お義父さん、お義母さん。私、昂輝くんとお付き合いさせていただいている笹瀬七海と申します」

「父さん、母さん、こちら、俺の彼女の笹瀬七海さん」


 風が収まった。

 静かな墓地の中で、俺たちの声だけが響く。


「お義母さんはあのとき気づかれたかと思うんですけど、私、魔導師なんです。昂輝くん、自分は魔導が使えないのに、怪異の討伐に同行させてほしいって言ってきたんです。どう思います? 私、最初は変な足手まといが増えたなぁって思いました」

「俺が七海に最初に会ったのはクラスでだけど、素の七海に会ったのは、怪異に襲われたときだった。七海は俺を助けてくれたけど、刀を突き付けてくるしで、とても怖かった」


 二人のお墓を前にして、俺たちはゆっくりと言葉を続ける。

 父さんも母さんもここで聞いてくれているような気がした。


「でも、昂輝くんは、私のために一生懸命でした。お弁当を作ってくれた。魔導薬を作ってくれた。そして、感情を吐き出した私をそのまま受け止めてくれた。昂輝くんは、ずっと私の側にいてくれていて、ずっと私を支えてくれました。だから私は――――」

「でも、七海は一般人を守るために必死に怪異と戦っていた。お兄さんの仇を討つために一人で戦っていた。それに、笑っているときの七海は、学園で会うときの七海と一緒だった。どちらも同じ七海なんだって思った。俺は、彼女に笑っていてほしくて、彼女に傷ついてほしくなかった。なぜなら俺は――――」


「――――昂輝くんを好きなりました」

「――――七海が好きだったから」


 二人の声がはもる。

 母さんが生きていれば、仲良しねぇ、とか言ってからかわれるかもしれない。


「あの、お義母さん、差し出がましいとは思いますが、昂輝くんは私が幸せにします。これからは私が昂輝くんを支えます。だから――――」

「ねえ、母さん、これから俺は、七海を幸せにするよ。ずっと側にいて、彼女を笑顔にする。だから――――」


 言葉を切り、俺たちは瞼を上げると、一度、お互いアイコンタクトを交わす。


 ――――これは誓いだ。


 今までの悲しい出来事にけじめをつけ、二人で支え合って、新たな一歩を踏み出すための。

 目線だけでお互いの意思を確認し、再び、母さんたちのお墓に向き直る。

 そして同時に、


「――――温かく、見守っていてください」

「――――温かく、見守ってよ」


 言葉を口にする。

 そのとき、俺たちの言葉に呼応するかのように、凪いでいた冷たい風が再び俺たちの頬を撫でたのだった。



 これは、少し不思議で甘酸っぱい俺と「七海」との物語。



  ――完――


『魔力0の俺と魔女の「  」~俺は彼女と再び歩き出す~』がついに完結しました!

~俺は彼女に二度恋をする~、~俺はいつまでも彼女を忘れない~、を合わせて、これにて、『魔力0の俺と魔女の「  」』シリーズが完結したことになります。

3部作を全て読まれた読者様はいかがだったでしょうか。共通の話が長くてつまらなかった、と思われている方もおられるかもしれませんが、私としては、それぞれにちりばめた伏線を今作をもって、ようやく全て回収することができたので、とても感慨深く感じています。

まだ、他の作品を読まれていない読者様は、今作を読んでみていかがだったでしょうか。今作は、ラブコメか?、と思われる方も多数おられたかもしれませんが、今作では、幸せになっていないヒロインがまだいますよね? ぜひ、上記他の作品に訪れてみてください。


最後に、ここまで今作を読んでくださった読者様、ブックマーク・評価をいただいた読者様、誠にありがとうございました。こうして完結することができたのは、全て読者様のおかげであり、小説を書いて投稿するのが大変楽しかったです。

深く感謝申し上げますm(_ _)m

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