表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/168

130話

 七海の小太刀がかぐらを貫いた。

 全身をかぐらに打ちのめされ、ほとんど動けなかったけれど、その光景だけは目に焼き付けた。

「な、なぜ……」

 かぐらが声を漏らす。

「――《石を(かえ)し、病を治す》」


 俺は種明かしの詞を口にする。

「なっ⁈」

 直後、かぐらの目が大きく開かれた。

 地面にあった魔法陣が消える。代わりに俺たちから少し離れた地点に魔法陣の縁が現れる。


 そう、本来魔法陣の縁があったのは、かぐらのいる地点より五メートル手前の位置。つまり、俺たちが今いる地点は既に魔法陣の外。

 俺はそれを幻影系の魔導を使って、()()()()()()()()()

 この魔法陣による魔導師殺しの箱庭は、新たな魔導の発動を禁止するのであって、すでに発動されている魔導を消去するものではない。

 だから、俺はあらかじめ、かぐらに魔導を使った。


「なるほど……、あの爆発は魔導の暴走ではなかったというわけかい……」

 かぐらがこちらを見据えながら呟く。その体には、七海の【虚無】によって罅が入り始めていた。

「ああ」

 痛みをこらえながら両手をつき、なんとか上体を起こして頷いた。

 あの爆発は最後に残っていた爆発用の魔導薬。

 使った幻影系の魔導は、術の対象に触れる必要があった。だから俺は、煙幕の中で瓶を割り、魔導薬を爆発させた。本命の魔導の詠唱を継続したまま。


 かぐらがあの詠唱を知っていたならば、かぐらは先読みして適切な行動を取っただろう。

 しかし、かぐらは自分の詠唱を知らなかった。故に、自分がどんな魔導を使うつもりか予測できなかった。


 無理もない。

 あれは、とある小さな島に伝わる名もない伝承をもとにした詠唱だった。

 魔導が大好きな母さんが、逃亡生活の中でたまたま見つけた無名の魔導だった。

 かぐらの崩壊が先ほどよりも進んでいた。


「術比べは私の負けだ……。でも、良かったよ……。あんたとの術比べは心が躍った……」

 かぐらは目を細めながら呟く。

 さらに、かぐらの体がボロボロになっていく。

 俺たちもようやく、戦いが終わるんだ、とほっと胸をなでおろした。

 しかしそのとき――、


「――【色欲(ルクスリア)】」


「「えっ?」」

 かぐらがそっと呟き、俺と七海が思わず声を上げた。

 直後、かぐらの足元からぶっとい蔦が飛び出す。七海は突然のことに体が動かず、蔦はかぐらもろとも彼女を口刺しにする。


「がっっ」


 腹部を貫かれた七海が、口から大量の鮮血を噴き出した。

 獲物を屠った蔦は、ゆっくりと地面に戻っていく。

 支えを失った七海とかぐらは地面にばたりと倒れた。

 かぐらがこちらに顔だけ向ける。

「ヒヒヒ……、【色欲】――無詠唱で植物を操る魔導さ。第四真祖からいただいた反則技だから……本当は使いたくなかったんだけどねぇ……」

 体がほとんど消滅し、後は顔だけとなったかぐらが、最後の力を振り絞って、解説をする。

「……ま、私の置き土産さ」

 そう言い残すと、かぐらはその顔すらも虚空へと消したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ