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126話

「ちっ、うまく逃げ隠れたようだねぇ……」

 ピンク色の煙が風に流されていき、その中からかぐらが姿を現す。かぐらの視界に、二人の姿は映っていなかった。

「まさか、あのお嬢ちゃんに俊哉とともえが負けるとはねぇ……」

 かぐらは先ほどまで七海たちが戦っていた方向を見やる。すでに二人の姿はなく、主に置いて行かれた小太刀が一本、地面に横たわっているのが見えた。

 かぐらは視線を戻す。

「さて、これからどうしようかねぇ……」

 そう呟きながら、かぐらは視線を横たわるゆめの方へと向ける。

 彼女を囮に昂輝たちを誘き出すのが一番楽だろうか。

 妹を助けるためにここまで来た彼らのことだ。ここで大切な妹をほったらかして逃げ帰ることはまさかあるまい。

 かぐらは疲れ果てて眠るゆめの方へと足を向ける。

 そのとき――、


「――【接続(コネクト)】。――《貫け、(てん)への御柱(みはしら)》」


 短文の詠唱が響き渡る。

 とっさにかぐらは後方へジャンプした。

 直後、先ほどまでいた地面から火柱が突き上がる。

 なんなく躱したかぐらは詠唱の声がした方向へ視線を向けた。


「はあ……、はあ……。まだ……、終っていないぞ……」

 そこには木に体重を預けるようにして立つ昂輝の姿があった。

 かぐらの表情に再び下卑た嗤いが浮かぶ。

「ヒヒヒ……、そうこなくっちゃあねぇ」

 かぐらが昂輝の方へ一歩踏み出す。

 かぐらが一歩踏み出すと、昂輝は口の端を吊り上げる。

「ここからは鬼ごっこだ。ばあちゃんよ、孫を捕まえてみろよ」

 そう言い残して昂輝はかぐらに背を向けて走り出した。

 すぐに昂輝の姿が森の中に消える。

 消えた孫の背中を見つめながら、かぐらの唇がさらに吊り上がった。


「いいじゃないか……。ここからは一方的な狩り(おにごっこ)といこうじゃないか」


 かぐらは森の中に入ると、耳を澄ました。

 直後、草むらを移動する音がする。

 とっさに詠唱を唱え、音のした方向へ魔導を放つ。先ほど昂輝の腕を焼いた炎雷が草木を灰に変えながら突き進む。

「うわっ」

 なんとか回避したのか、無様な孫の声がした。

 しかし、すぐさま立ち上がったようで、かぐらと距離をとるように森の奥へと移動していく。

 かぐらは静かに昂輝の後を追っていく。

 そして、昂輝の進行方向とかぐらの目線とが一直線になれば、すぐさま次の魔導を放った。

 さあ、今度はどう不格好に躱すのか、とか考えていると、


「――【接続(コネクト)】。――《響け、終わりを告げる十二時の鐘》」


 短文の詠唱が響き、かぐらが放った魔導をかき消した。

 プスプスと音を立てて燃える草花の先には、【解呪】の魔導を行使した昂輝の姿がある。

「ほう……」

 かぐらが感嘆の声を漏らす。

 もちろん、かぐらも【解呪】については知っている。でも、かぐらが知っている【解呪】の詠唱はもっと長かった。

「なるほど、詠唱を切り詰めたか……」

 詠唱の切り詰め。魔導の威力・効果を落とす代わりに、本来の詠唱よりも短くする魔導技術。

 詠唱は、内面世界において自分の望む現象を引き起こすためのいわば道具にすぎないが、それをとっさに改変して、魔導として成立させるのは容易ではない。やはり彼は魔導師としての才能に恵まれすぎているらしい。

 だが、これはかぐらにとっても好都合だった。この土壇場でさらに魅せてくれる若人に敬意すら覚える。

「さあ、俺を捕まえてみろよ」

 かぐらの魔導を【解呪】した昂輝は再び、森の奥へと消える。


「面白いじゃないか……」

 それをかぐらは獲物を追い詰める狩人のように、顔に喜悦を躍らせながら追いかける。


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