表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/168

121話

 昂輝たちと離れた後、七海は俊哉とともえと呼ばれた二人組と対峙していた。

 紫紺のローブに身に纏う二人がフードを外すと、今まで隠れていた顔が明らかになる。

 一人は自分と同じくらいの年齢と思われる少女。髪型は志藤綾女と同じポニーテールだが、幼い顔立ちだからか、彼女と違って活発な印象を抱かせた。おそらく、この少女がともえだろう。

 もう一人は、ともえと対象的に巌のような大男だった。さっきまでは距離が離れていたため、よく分からなかったが、おそらく百九十センチはあるのではないか。頭を丸めているところからも修行僧という言葉がよく似合う人物だった。こちらが俊哉というらしい。


 三人は互いに見つめ合い、すぐには動かなかった。それぞれ、相手の出方を注視していた。

 本殿から離れたことで篝火の明かりも遠ざかり、夜の闇があたりを包む。冬の冷たい夜風が三者の合間を過ぎ去る。

「……」

  七海は小太刀を顔の前に構え、強く握りしめる。

 このまま膠着状態が続くかのように思われたが、意外なところで、その沈黙が破られた。

 本殿の方から強い光が放たれ、直後、轟音が鳴り響いた。


「っっ⁈」

 

  とっさに七海は本殿を見やる。そして、目を疑う。

 本殿では信じられない光景が広がっていた。

 灰すら残さない灼熱が放たれれば、空気すら凍らせる吹雪が吹き荒れる。竜のような激しい雷光が走れば、全てを破壊する竜巻が襲う。

  戦術を立てれば、相手はその意図を先読みし、裏をかこうとする。複雑な戦略が幾筋も絡み合い、一瞬の判断ミスが命取りとなる。

 高度な知と技がこれでもかと注ぎ込まれた戦い。遥かな高みに至った魔導師たちによる戦い。

 そんな魔導戦の極致ともいえる術比べが本殿において繰り広げられていた。


「――ほんっと、嫌になるよねぇ」

  本殿の戦いに目を奪われていると、目の前の敵からため息が聞こえた。

 視線を戻すと、ともえが腰に手を当てながら、本殿の戦いを見やっている。

「魔導ってのは才能がものをいう世界だけどさ、あんな異次元な戦いを見せつけられると、嫌でも自分の才能の無さを実感させられるよ」

 ともえの言葉に七海はふっと口の端を上げる。

 彼女の言葉に共感を覚えた。敵とはいえ、もしかしたら彼女と気が合うのかもしれない。


「笹瀬さんもそう思うでしょ?」


「えっ?」


 彼女の発言に心の中で頷いていると、急に名前を呼ばれた。

 ともえは、唖然とする七海を見て、口元に手を当てて笑う。


「ま、敵からいきなり名前を呼ばれたらそうなるよね。でも笹瀬さんでしょ?」

「うん、そうだけど……」


 七海はキョトンとしながら、ともえの問いに首肯する。

 しかし、彼女に自分の名前なんて伝えただろうか?

 そんな七海の反応が面白かったのか、ともえは再びクスクスと笑みを浮かべた。


「星華学園新聞部の笹瀬七海って言ったら有名だから分かるよ。私も星華学園なの」

「えっ?」

「さっき、かぐら様が仰っていたでしょ、昂輝様の居所を探していたって。私たちはかぐら様の命令で、このあたりに昂輝様がいないか探していたの。学園に入学していたのは一般の高校生に紛れるためだったけどね」


 一ノ瀬家は東の名家だけあって、その配下も多い。かぐらが昂輝を探していたのならば、このあたりにも配下の魔導師を派遣するのは最もだ。ただ、まさか自分の学園にその配下の魔導師が紛れ込んでいるなんて、七海は夢にも思っていなかった。


「ま、私としては、学園の同級生を傷つけたくはないんだけどさ、これもかぐら様の命令だから、――【接続(コネクト)】」

「――【接続(コネクト)】」


 直後、ともえが詠唱を開始する。隣で沈黙していた俊哉もともえが詠唱を開始したのを確認して、その詞を口にする。


「っっ⁈ ――【接続(コネクト)】」


 七海は二人がいきなり詠唱を開始したのを見て、慌てて詞を口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ