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106話

「「えっ?」」


 俺と七海がとっさに振り返る。

「あ、やっぱりこうくんじゃない? 偶然ね、こんなところで会うなんて」

「……」

 振り返ると、そこには母さんがいた。

「えっ、ちょっ、もしかしてこの人――」

 勉強会のとき、七海も母さんと会っていた。だから気が付いたのだろう。

 七海の動揺の声を聞いて我に返る。

 そう、母さんは可愛い子を見ると無意識に抱きついてしまう病気なのだ。このままだと、七海が母さんの餌食になってしまう。

 俺の行動は早かった。とっさに七海と母さんの間に立ち、彼女の前に立ちはだかる。


「あらあら、もしかして後ろの子は、こうくんの彼女さん?」

 しかし、母さんは七海に抱きつこうとはしなかった。頬に手を置き、俺ではなく、後ろの七海へと視線を向けていた。

「あれっ?」

 予想外の母さんの言動に呆気にとられる。

「あっ、あなた、この前の勉強会に来ていた子ね」

 母さんも勉強会で七海と会ったことを思い出したらしい。

「あ、はい。先日はお邪魔しましたっ。えっと、昂輝くんとお付き合いさせていただいている笹瀬七海です」

 七海が俺の隣に並んで、がばっと頭を下げる。

「ご丁寧にどうも。こうくんの母、桂咲希です」

 七海がお辞儀をすると母さんも頭を下げた。

「えっ、あ、あれっ?」

 そんな二人に置いてけぼりをくらう。


 母さんは頭を上げると七海をじっと見つめる。七海はそんな母さんに身をこわばらせた。

 そして、母さんは目を静かに閉じると、

「なるほどね……」

 そう意味深に呟く。

「えーっと、母さん、どうかした?」

 何に納得したのか分からず、母さんに問いかける。七海も当惑していた。

 母さんは閉じていた目を開け、首を横に振った。

「いいえ、なんでもないわ。ごめんね、デートのお邪魔をして」

「え、いや、別に大丈夫だけど……」

「七海ちゃん、こうくんはちょっと危なっかしいところもあるけどよろしくね。こうくん、今日はちゃんと七海ちゃんをエスコートするのよ?」

 それだけ言うと、母さんはこの場を後にしようとする。

「あっ、はいっ、よろしくされましたっ」

「分かってる。ちゃんと七海をエスコートするよ」

 店内を後にする母さんに声を掛ける。


 母さんの背中が見えなくなると、俺たちは少しの間呆けた後にゆめのプレゼント選びを再開したのだった。


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