105話
九章
「ねえねえ、あれなんかいいんじゃない?」
七海が商品棚に陳列されたトラのぬいぐるみを指さす。
今日は放課後、少し遠出して郊外の大型ショッピングモールに来ていた。なぜ遠くまで来たのかというのは、七海が素の自分でいられるよう、知り合いが平日に来ないような場所にしたかったからだ。
フロア面積四国最大級、三階建ての巨大な建物に二百近くのテナントが出店している。平日のため休日と比べると人は少ないらしいが、それでも多くの人がモール内を行き交っていた。
「にしても、ゆめちゃんがもうすぐ誕生日ねえ……」
七海が見つけたトラのぬいぐるみを品定めすべく、それが置いてある雑貨屋に入る。
「ああ、ちょうど一週間後だな」
「ゆめちゃん、何歳になるんだっけ?」
「今が小学二年生だから八歳」
「ほんと、昂輝と違ってすごく可愛いし、いい子だよね」
七海がゆめと会ったのは、志藤さんたちと勉強会を開いたとき。トラの着ぐるみを着たゆめトラに遼、牧原さん、七海が悩殺されたあの日だ。
「俺と違っては一言余計。でも、ありがとな。ゆめの誕生日プレゼントを一緒に考えてくれて」
トラのぬいぐるみを手に取りながら品定めする七海に感謝する。
「まあ、ゆめちゃんのためってなったら、なんでもするよ。昂輝に任せたら変な贈り物をしそうだし」
「いやいや、俺だって変なプレゼントはしないって。ただ、女子の意見も聞きたいなって」
「はいはい」
七海はトラのぬいぐるみの品定めを終えると、次から次へと商品を物色していく。あーでもない、こーでもない、と言いながら、真剣に考えてくれている様子である。
実のところ、今日の目的はゆめのプレゼント選びだけではない。
もう一つの目的は、七海とのショッピングデート。今まで七海と二人きりになるのは夜であることが多かったから、一般的な高校生として、昼のデートもやってみたいと思っていた。
まあ放課後だから、もう夕方ではあるが。
「ねえ、ちょっと。昂輝も一緒に選んでって」
商品を物色して店の奥まで入っていた七海が俺を呼んでくる。
「あ、ごめん、ごめん、すぐ行く」
七海一人に任せていたことに謝罪しつつ、彼女のもとに向かう。
そして、彼女の隣までやってくると、
「あら、もしかしてこうくん?」
聞きなれた声が背後から投げかけられた。




