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98話

 しばらく進むと、不意に七海の足が止まった。

「どうかしたか?」

「……」

 七海はとある一点を見つめていた。その視線の先にあるのは、『射的』の看板を掲げる屋台。

「やってみるか?」

「うん、やってみたい」

 七海は視線を外すことなく答える。

 そうして、俺たちは射的の屋台に入ることになった。


 やはり銃を扱うというのは、人の中にある子供心をくすぐる作用があるのだろうか。射的の屋台にはちょっとした列ができていた。

 最後尾に並び、しばらくして俺たちの番がやって来る。

「すみません、二人お願いします」

「はいよ、それじゃあ、合計で千円ね」

 俺は財布の中から千円札を取り出し、店主に渡す。

「はい、ありがとう。頑張ってくれよ」

 店主は千円札を受け取ると、二丁の銃と一人五発ずつ弾を渡してくれた。

 弾を込め、準備を行う。すると、隣にいた七海から声を掛けられた。

「ねえ、せっかくだし勝負しない? 負けた方が今日の晩ご飯おごりで」

 晩ご飯を掛けた勝負。つまり、今日の飲食用の屋台を負けた方が全て払うということだろう。

「別にいいけど、七海は屋台初めてなんだろ? いいのか、俺、一応引っ越す前の地域でも射的はやっていたぞ?」

「うん、もちろん。その方が面白そうでしょ?」

 七海が不敵な笑みを浮かべる。仕掛けられた勝負を降りるわけにはいかない。それに今日は七海との初デートだ。カッコいいところを見せなければならない。

「わかった。それならゲットした景品の個数とレア度で勝負な」

「うん」

 そうして、二人はお互いの視線を外し、景品に向かって銃を構える。

 一番レアな景品はあの携帯ゲーム機だろうか。でも、おそらく空箱で倒れるようにはなっているだろうが、さすがにあれを倒すのは難しい気がする。


 となると……


 倒せそうな景品で、かつレア度もある景品を探す。そして、ある一つの景品に目が止まった。

 それは両手にのるくらいのクマのぬいぐるみだった。

「よし、あれにするか……」

 小さく独り言ちる。

 目を細めながら、標準を合わす。そして、ひと思いに引き金を引いた。

 弾がピュッと飛び出る。しかし、弾が軽すぎるのか、想定の軌道よりも上に飛んだ。

 当然、弾はぬいぐるみに当たらず、あらぬ方向に飛んでいく。

「まじか……」

 なかなかここの屋台は難しい。

 うぅっと唸りながら次の弾の準備をしていると、おお、と歓声が上がった。

 視線を景品へ戻すと、先ほどのぬいぐるみが倒されている。そして、そのぬいぐるみを射止めた強者は――、


「やったね」


 隣で小さくガッツポーズを決める恋人だった。

「すごいな、七海。初めてなのに、一発で景品を取っちゃうなんて」

 動揺を抑え込みながら、七海に話しかける。

「うん、思ったよりも簡単かも。これなら、あの携帯ゲーム機だって落とせそう」

「へ、へー……」

 焦りで声が変になりそうだった。いかん、いかん、勝負は始まったばかりだ。これから修正して、七海より景品を多くとればいい。七海だって、そんな毎回景品を落とせるわけでもないだろう。

 俺は冷静になるよう努めて、再度、銃を構える。

 次は難易度を落として、あの置物にしよう。

 標準を定めて、引き金を引く。

「……」

 弾はまたも逸れた。今度は上にいくのではなく、重力に従って、想定よりも下方にずれた。


 そして、追い打ちをかけるように隣からまた歓声が上がったのだった。


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