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97話

 鳥居から社までの道は多くの人でごった返していた。十一月の祭りであるから、浴衣を着ている人はさすがにいないけど、着物を着ている人はちらほら見受けられた。

 通りのそばにはたくさんの屋台が立ち並んでいる。焼きそばやたこ焼きといった食べ物を売る屋台もあれば、おみくじや金魚すくいといった遊ぶための屋台もある。

 社のほうから奏でられる太鼓や笛の音に人々の喧騒が混じりあい、あのお祭り独特の高揚感を掻き立てる。

 引っ越しをしてからここのお祭りには初めて訪れたが、以前いた町と同じ、若しくはそれ以上に神社では賑わいを見せていた。

 俺たちもそんな賑やかなお祭り風景の一部となって、人の流れに沿いながら参道を歩く。


「こっちのお祭りもかなりの人が出てくるんだな」

 隣を歩く七海に話しかける。

「うん、そうかも。この辺りでは有名なお祭りらしくて、遠方からも人が来るって言っていた。私も今日来たときは、想像以上の人の多さに驚いたよ」

「あれ、七海はこの祭りに参加したことないのか?」

 この夏に転校してきた俺はともかく、七海はずっとこの地域で暮らしている。地元で有名な祭りなのに、訪れたのはなかったのだろうか。

「うーん、私、今まで夜はずっと怪異を追いかけていたから。ほら、このお祭りって、夕方から夜中にかけて行われるでしょ? だから参加したことはなかった。近くの山で怪異の出現を待っていたときにこの辺りを見下ろしたことがあるくらいかな」

 七海は屋台に目移りしながら答える。

 七海の家は怪異を討伐する家系だ。そして、怪異は夜に生まれ落ちる。だとすると、七海の言う通り笹瀬家では、秋祭りといった夜のイベントに参加することができなかったのだろう。

 今も興味深そうに瞳をキラキラとさせながら屋台を見て回る彼女の様子が、怪異を討伐する魔導師の苦労を物語っていた。


「それなら今晩はいいのか?」

 怪異は毎晩生まれ落ちるものだ。怪異の発生に定休日なるものはない。それは、ここ最近、彼女と怪異の討伐を行ってきて身に染みて分かったことだ。

「あー、うん。今日は大丈夫。お父さんが代わってくれたから」

 ちょっとバツが悪そうに七海が答える。

 七海によると、彼女の父は現役を退いており、今は基本的に七海が怪異の討伐をしているとのことだった。それが今晩だけは、彼女の父が変わってくれたらしい。

「七海のお父さん、代わってくれてよかったな。いつも七海が怪異の討伐をしているから、他で忙しいのかと思っていたよ」

「うん、その……だって、お父さんにもバレちゃったから」

 七海が気まずそうに顔を伏せる。

「ん、なにがバレたって?」

 下を向いていた七海を不審に思い、首を傾げる。

「えーっと、……私たちが、つ、付き合っていること」

「……えっ?」

 足が止まった。

「その、私が昂輝と電話しているのがお母さんに聞こえていたらしくって、それをきっかけに夕食時に追及された。で、その白状したら、お母さんがお父さんに、せっかく秋祭りがあるんだから、デートに行かせてあげなさいって仕事を押し付けた」

「……、あー、なるほど……」

「そ、それで……、お母さんが、デートに行かせてあげるから、今度、うちに彼氏を連れてきなさいって。それが交換条件だって」

「……えっ?」

 理解が追い付かなかった。

「ん、つまり、近々、七海の家に行くと? ご両親へのご挨拶をしに?」

 七海が視線をそらす。

「ま、まあ……、そういうこと」

 なるほど、だから七海は少し気まずそうにしていたのか。人生で緊張するシーン、トップスリーに入る「彼女のご両親へ挨拶」を勝手に決めたことに罪悪感を覚えているのだろう。


「……分かった。後日、七海のご両親が都合のいいときを教えてくれ」

 その言葉に七海が目を見開く。

「えっ、会ってくれるの?」

「それが今日のデートの交換条件なんだろ? たしかに緊張はするけど、いつかはご挨拶に行かないとだし、だから、きちんと会いに行くよ」

 頭を掻きながら答える。

 すると、七海が手を解いて、代わりに腕にしがみついてきた。彼女の柔らかさと温もりが右腕に伝わる。

「えっ、ちょっ⁈」

 いきなり大胆に接近してきた彼女に戸惑いを隠せない。

「……ごめん、嬉しくって。わるいけど、もうちょっとだけこうさせて」

「~~っ」

 そんないじらしいことを言われて断れるわけがない。


 周囲の温かい視線を浴びながら、俺たちは先に進むことにした。


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