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79話

 数時間後――


 俺は学園前の校門に到着した。

 現在の時刻は九時四十五分。遅れると七海から小言を言われると思って、少し余裕をもって到着するようにしている。で、余裕をもって到着したはずなのだが……


「へえ、早かったね」


 すでに七海は到着していた。今日こそは彼女よりも早く着いた自信があったのだが、全くそんなことはなかった。

 彼女は校門にもたれかかって腕を組んでいた。短めな髪というボーイッシュさと夜バージョンのツンケンとした感じも相まって、彼女のその仕草はとてもしっくりくる。

「それで、今日はなんで早く集合しようとか言い出したの?」

 彼女は組んでいた腕を解き、こちらに近づく。

 本来の集合時間より二時間も前にここへ呼び出したのだ。七海としてはその理由が気になっているだろう。

「ん、それは……」

 今から七海に理由を説明しようとしたその時、


「――あれ、桂に笹瀬じゃないか?」


 不意に声を掛けられた。


「「えっ?」」


 七海と俺は思わず声を上げる。

 声のした方へ振り返ると、ちょうど校門から外に出ようとする川島先生の姿があった。いつものジャージ姿で、その背中にはリュックサックを背負っている。

 川島先生は人一人分だけ開けられていた校門をくぐり、外に出た段階で、門を最後まで閉めた。先生が門を閉めきるまで、七海と俺は先生がそうする様子を黙って見ていた。

「か、川島先生?」

 自分よりも背の高い川島先生を見上げる。こんな時間にまさか学園内に人が残っていることを想定していなかった。

「ん、どうした桂? 今日も授業があったのに俺の顔を忘れたのか?」

 川島先生はその爽やかな顔で、はは、と笑う。

「実は今日は残業に追われていてな。今、仕事が終わったところなんだよ」

「あ、そうなんですか……。遅くまで大変ですね」

「ま、これが大人になるっていうことなのかもな……って、それよりもなんで桂たちがこんなところにいるんだ?」

 川島先生が首を傾げる。

 先生がそう問いかけてきた瞬間、二人の肩がビクッと震えた。

 ここで、怪異を倒すために来ました、なんて馬鹿正直に答えることはできない。とはいえ、こんな夜遅くに学園の前に二人でいる理由なんてとっさに考え付くはずもなかった。


「それにどうした? 笹瀬なんて珍しい恰好をしているじゃないか」

「ッッ⁈」

 さらに七海が体を震わせる。

 今の七海は怪異との戦いに備えて黒衣に身を包んでいる。幸い、小太刀はとっさに裾で隠したおかげで、川島先生の目に触れることはなかったが、その身なりはかなり特異に映るだろう。

 俺は横目で七海に向かって目配せする。どうやって説明するのか、彼女の助けを乞いたかった。

 しかし、七海はそれどころではないのだろう。とてもぎこちなく首をふるふるとさせる。動揺がピークに達しているようだ。その目は、どうにかして、と俺以上に訴えかけていた。あそこまで動揺している彼女なんて初めて見た。

 新たな一面を見られて、ちょっぴり嬉しいが、今は喜んでいる場合ではない。すぐさま先生への言い訳を考えないといけなかった。

「あ、え、えーっと……」

 言葉がしどろもどろになる。背中からは嫌な汗が噴き出していた。

「んー?」

 そんな俺たちを訝しむように、先生はこちらを凝視してくる。


 そのとき、俺の頭の中に、この場を切り抜けるための妙案が浮かんだ。すこし恥ずかしいが、今はこれに賭けるしかない。

 俺は七海の腕を掴むと、勢いよくこちらに引き寄せる。彼女の、え、と驚く声が聞こえた。

「え、えっと、僕たち、さっきまで向こうの公園でデートをしていて、帰り道が学園まで一緒だったんで、ここまで移動してきたんです」

 七海が何か喋ろうとしたが、俺は彼女を抱きしめることで、その口を封じる。

 川島先生も目を点にしていた。

「僕が夜の公園で彼女とデートしてみたかったんで、今晩呼び出して、で、もう夜も遅くなったから帰ろうとっ。で、でも、学園まで来たら、急に彼女と別れたくなくなってっ。そのっ、早く帰らないといけないことは分かっていたんですけどっ」

 顔が赤くなっているのを自覚しながら、そう早口でまくし立てる。もう、自分でも何を言っているか分からなくなっていた。

 ただ、その必死さが功を奏したのかは知らないが、

「あー、もうわかった、わかったから」

 川島先生は額を押さえながら、ため息をついた後、俺の話を遮った。

「つまりデート帰りで、彼女と離れたくなかったってことだろ?」

「えーっと、……はい」

 俺は首を縦に振る。


 すると川島先生は両手を腰に当てて嘆息した。

「まあ、そういうことなら、今回は大目に見てやるよ。先生も青春時代は彼女と夜の公園でデートをしたことがあるしな。ただ、もう補導される時間が迫っているからさっさと帰るんだぞ? さすがに警察のお世話になったら俺にはどうにもできないからな」

「は、はい、すぐに帰ります」

 そうして俺はようやく七海の拘束を解く。七海は抗議の目を送っていた。もちろん、先生からは見えないように。

「うん、ならよろしい。……あっ、そうだっ」

「え、どうかしたんですか?」

 川島先生はポケットの中をごそごそとして、何かを取り出す。そして、取り出したそれを俺の前に差し出してきた。


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