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75話★

 俺は志藤さんの魔導の状況を確認するため、母さんの部屋を訪れていた。

 母さんは志藤さんに向き合って講義をしている。


「綾女ちゃん、この前、魔導の原理について話したのを覚えている?」

「たしか、自分の世界と外部の世界をつなげることで、不可思議な現象を生じさせるってことですよね」

「そう。人が目に移す世界は、個々によってそれぞれ異なると言われているわ。つまり、綾女ちゃんが見ている世界とこうくんが見ている世界は全く一緒とはいえない。綾女ちゃんには、今ここに何もないように見えていても、こうくんにはここに犬がいるように見えているかもしれない。この自分だけが見ている世界を内部世界と言うわね」


「内部世界においては自己の想像力次第でどんな現象をも引き起こすことが出来る、でしたよね」

「うんうん、しっかり覚えているわね。でも、内部世界でいくら奇怪な現象を発生させたとしても、それは他の人には見ることも感じることもできない。なにせ、世界が異なるのだから」


「だから、魔力を媒介として、内部世界を他の世界と同期させ、内部世界で発生させた現象を自分だけでなく他の人々の共通認識下に置く。それが魔導」

「大正解。そして、内部世界で怪現象を引き起こすために綾女ちゃんがやっているのが詠唱よ。詠唱は、言葉やそれを唱える調子、声音の高低をもって、自己に暗示をかけるものなの。つまり、自身に暗示をかけることによって、内部世界で特定の現象を生じさせる手段にあたる」


「えっ、ということはもしかして……」


 志藤さんは目を見開く。今の母さんの発言で何かに気がついたようだ。


「鋭いわね。そう、ということは、魔導を使うには自己暗示さえかければいいのだから、その手段はなにも言葉による詠唱でなくてもいい。それこそ、歌によって暗示をかけたのでもいいってわけよ」


 なるほど……

 つまり、文化祭当日では、志藤さんは歌をトリガーに魔導を発動させるというわけか。


「それじゃあ、これからは歌で暗示をかけられるよう練習していくわね」

「はい、よろしくお願いします」


 こうして、志藤さんの新たな魔導の訓練が始まった。


          ***


 気がつけば曲が終わっていた。志藤さんの魔導が解け、あたりの風景も、もとの体育館に戻る。

 観客席は依然として熱狂に包まれている。


 最初の曲は大成功だったようだ。志藤さんの方をちらりと見ると、彼女は笑みを浮かべた。最初の魔導が無事に成功し、こうして観客が盛り上がっていることに心底喜んでいるように見えた。

 曲が終わって少しすると、七海がMCを始める。MCといっても何のことはない。ただメンバーの自己紹介をしていく程度だ。それが終わればすぐに次の曲に入らなければならない。各グループの持ち時間は決められているからだ。

 七海、志藤さん、牧原さんと自己紹介が続いていく。


 そして、遼の自己紹介に入ったとき、志藤さんの肩がビクッと震えた。志藤さんは観客席のある一点をじっと見つめている。


 何かあったのだろうか……


 そう思って俺も志藤さんの視線の先を見つめてみるが、そこにはただ溢れんばかりの生徒たちがいるだけで、特別なものは見当たらない。

 ただ、彼女の様子がなんだかおかしいような気がしていた。


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