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67話★

「はい、こうくん。ちょっとこうくんの分を多めに注ぎすぎちゃったから気を付けて運んでね」

「わかったよ」

 母さんから四人分の味噌汁を受け取る。先ほど母さんが言っていたように、俺のお椀だけ味噌汁がなみなみに注がれていた。

「それにしても、今日は綾女ちゃんがうちでご飯食べていってくれるっていうから、お母さんとても嬉しいわ~」

 体をくねくねとよじり、喜びを表現する母さん。母さんはご飯を作っている間、終始ご機嫌だった。


 今日は、志藤さんがうちでご飯を食べることになった。なんでも、志藤さんのご両親が仕事の都合で、今日は家に帰れそうにないらしい。

 ゆめも志藤さんと晩ご飯を食べられるということで浮かれていた。今は志藤さんと一緒に晩ご飯のお手伝いをしている。


 少しして、食卓の準備が整った。俺の正面に母さんが座り、その隣にゆめが座る。志藤さんは俺の隣に座った。ここは本来父さんの席なのだが、今日も出張で帰宅できないそうなので、志藤さんに座ってもらうことにしたのだ。


「「「「いただきま~す」」」」


 各自が自身のお皿に手をつける。

 今日のメニューは、味噌汁、白ご飯、キャベツに唐揚げ。唐揚げは志藤さんの好物らしく、母さんがウキウキで用意をしていた。

「ん⁈ この唐揚げ、とても美味しいです……」

  唐揚げを一口頬張った志藤さんが驚きの声をあげる。

 そんな彼女の言葉を聞いて、俺も心の中で彼女に同意する。

 母さんが作る唐揚げは醤油や生姜などで作る特製のタレに数時間漬け込んだ後に揚げているため、とても味が染み込んでいる。それに揚げる時の温度、揚げる時間にもこだわりがあり、衣はサクッと、そして中はジューシーに仕上がっているのだ。俺もゆめもこの唐揚げは大好物だった。

 母さんも志藤さんが喜んでいるのを見てご満悦らしい。

「あら、喜んで貰えているようで嬉しいわ〜。この唐揚げ、こうくんとゆめちゃんも大好物なのよ。綾女ちゃんがお嫁さんに来る前には教えてあげるからね」

パチッとウインクをする母さん。


「「ごほっ」」


  母さんの言葉に俺と志藤さんがむせた。我が母ながらいきなりぶち込んでくる。

「母さんっっ」

 恨みがましく睨みつけながら抗議の声を上げる。一方の志藤さんは無言であったが、その顔を真っ赤にさせていた。

 しかし母さんは悪びれもせず、すっとぼけて見せる。

「あら、違うの? お母さん、綾女ちゃんなら大歓迎よ。こうくんは綾女ちゃんを放さないようしっかり掴まえておきなさい」

いつもの母さんペースに俺は頭を抱えるしかなかった。そりゃあ、志藤さんのような綺麗な人が義娘になるのだから、母さんは大歓迎だろう。


 こちらがため息をついていると、今まで静かに唐揚げを食べていたゆめが志藤さんをじっと見つめて、

「あーちゃん、にぃのお嫁さんになるの?」

 と、小首を傾げながら問いかけた。

「ち、違うわっ」

 志藤さんはブンブンと頭をふる。その顔はまだ赤いままだ。

「ゆめ、綾ちゃんがお姉ちゃんになるなら嬉しい……」

「うっ」

 ゆめの小悪魔モードが発動した。ゆめはその澄み切った瞳でじっと志藤さんを見つめている。

 志藤さんはゆめと俺を交互に見ていたが、やがてプシュー、と音を立てたように思考がオーバーヒートした。

「本当に綾女ちゃんは可愛いわね〜」

 母さんがそんな志藤さんを見つめながら、ニコニコと笑っている。

「はぁ……。母さん、そろそろ志藤さんをからかうのはやめてあげなよ」

「ごめんなさいね~。あっ、そういえば、こうくんたちは文化祭で何か出し物をするの? 文化祭、もう少しでしょ?」

 ひとしきり志藤さんの反応を楽しんで満足したのか、母さんはようやく話題を変えてくれた。


「えーっと、クラス出し物はコスプレ喫茶だったかな。コンセプトは大正ロマン」

「コスプレ喫茶っ⁈」

 つい一昨日、クラスの話し合いで決まったことを説明する。その途端、母さんの目が輝きだした。

「そ、それって、綾女ちゃんもコスプレするの?」

「う、うん……」

 母さんの勢いに思わず気押される。この人、さらっと息子のことを除外したよ。

「たしか、星華学園は一般入場も可能だったわよね?」

「あ、でもその日は……」

 星華学園の文化祭は学園の生徒だけでなく、その保護者やOBといった学外の人も参加することができる。母さんも保護者として星華祭に行くつもりだろう。

 しかし、たしか星華祭の日から数日間、母さんは埼玉に戻ることになっていたはずだ。一度、自分の魔導薬を使っている患者さんの様子を見に行きたいとか言っていた気がする。

 そのことを俺は告げようとしたのだが、それよりも前に、母さんはスマホを突然取り出し、すさまじい勢いで操作し始めた。操作中、「こっちの予定をこうして」とか、「この用事は大したことないから削除して」とかぶつぶつと唱えている。

 これは是が非でも文化祭に来るつもりだと、母さんの真剣な眼差しで察してしまった。


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