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来訪者を送る盗賊

「さて、と……私はそろそろ、お(いとま)させてもらうとしようか?」


「何じゃソルマ、お主は泊まっていかんのか?」


 昼食と雑談に一息ついた頃、ソルマがそんな事を言い出した。

 俺も無鬼(ナキ)と同じで、泊まると思っていたから内心で驚いている。

 この辺境の地にある家を見つけるの、相当疲れた筈だろうに……


「申し出はありがたいが、まだ用事が残っていてね。急いでパトリオット王国に戻らなければいけないんだ」


「それなら仕方ないか、俺が【転移魔法】で送るよ。ちょっと待っててくれ、お土産を用意するから」


「断るのがむしろ無粋か。また遊びに来る事があれば、今度は全員に向けた手土産を持ってこよう」


「そういう事なら……ワタシと無鬼(ナキ)が作った、護符をあげる……」


 俺が土産になるような物を探しに行こうとすると、メシアが木で出来た護符をソルマに渡す。

 あの護符は俺も貰っている……アレを渡すって事は、メシアはソルマをかなり許しているっぽいな。


「ありがたくいただこう。この護符、かなり魔力を込められているようだが……」


「その護符はメシアの魔力によって、魔法攻撃への耐性が上がる。更に無鬼(ナキ)のスキルで、ソルマが魔力を込めるとこっちに居場所が伝わる……つまり、何時でも遊びに来て良いっていう許可証みたいなもんだな」


「成程、では服の裏側に装備させていただこう。こういった物は、装備しなければ効果を発揮してくれないからね」


 そう言ってソルマは早速、服の裏側に貰った護符を仕込んでいる。

 メシアと無鬼(ナキ)が護符を渡したのなら、俺は装備じゃない物を渡そうかな……?

 となると、ソルマに渡せそうなのは……アレが良いか!


「ソルマ、俺からはコレでどうだ?」


「この黒い鱗は……ブラックドラゴンの鱗かい? そう言えば外に、君が手懐けているらしきブラックドラゴンが居たね」


「そうそう、ハーティって名前の相棒なんだけどさ。自然と剥がれ落ちた物で悪いけど、それでも売って良し加工して良しの素材になるぞ」


「まさか、売りはしないさ。ブラックドラゴンの鱗は軽くて丈夫だし、ドワーフのおっちゃんに頼んで盾にでもしてもらおう。帰る前に、礼を言っておかねばな」


 おっちゃんか、懐かしいな……最後に会ったのは、確か半年前にこっそり手袋やマントのサイズ調整をお願いしに行った時かな?

 久しぶりに顔を見たいし、ソルマを送った後に顔を出しても良いかもしれない。


「さて(わらわ)達は土産を渡したが、シーリアスは渡さんのか? わざわざここまで遊びに来てくれたんじゃしぃ? 何か渡してやらんとなぁ、のぅメシア?」


「そうだね……シーリアスも渡すべきだよ……?」


「ぐぬぬ……っ!」


 無鬼(ナキ)とメシアの言葉に、シーリアスは悔しそうに唸っている。

 そんな3人を微笑(ほほえ)ましく見つめていると、ソルマからこっそり脇を小突かれた。


「ローブ、別に無理しなくても良いと伝えてくれないか?」


「いやいや、シーリアスも本当は渡したいんだよ、後で渡そうと様子を伺ってたんだけど、無鬼(ナキ)とメシアはソレを分かって茶化してるんだ」


「それは何と言うか……申し訳ない」


 俺達がコソコソと話しているのを見て、シーリアスは急いで自分の部屋に戻る。

 どんなお土産を渡すつもりなのかと待っていると、直ぐに何かを持ってソルマの前にやってきた。

 その手に持っているのは……手紙?


「ソルマよ、自分からはコレを渡そう。どうか受け取ってくれ」


「中身を確認しても?」


「自分の推薦状のような物だ。これを父上に渡せば、パトリオット王国から特別な依頼を引き受けられるだろう。ローブとの模擬戦で、貴様の実力が信用できるのは分かったからな」


「成程、とても助かる。この恩はパトリオット王国の近況報告で、返すとするよ」


「フンッ。自分が推薦状を渡したからと言って、父上が貴様を認めるかは別問題だ。自分に恥はかかせないでくれよ」


「今のはシーリアスの推薦状だからって、油断しないで全力を尽くして頑張れよって事だな」


「ローブッ!?」


「分かっているとも。Ms.シーリアス、感謝する」


 ソルマが頭を下げると、シーリアスは何とも言えない表情でそっぽを向いてしまう。

 素直じゃないシーリアスに苦笑しつつ、俺はパトリオット王国へ転移する魔法陣を用意した。


「行き先はアムルンさんの酒場で良いか? ちょっとだけ、挨拶したくてさ」


「ああ、勿論大丈夫だ。それではもう少しだけ、ローブの事を借りるとしよう」


「うん、ローブの事……よろしくね……!」


 メシア達に軽く手を振り、ソルマと2人でパトリオット王国のアムルンさんの酒場へ転移する。

 カウンター席に突然現れた俺達に、アムルンさんは少しだけ目を見開きながらグラスを用意してくれた。


「ソルマちゃんと、アンタが来るなんてね……個室じゃなくて良いのかしらぁん?」


「カウンター席で大丈夫、【かくれんぼ】を……こっちで言う【気配遮断】を借りてきてるからさ」


「それなら安心ね、アタシおつまみ作ってくるわぁん」


「私が奢るから、豪勢にお願いするよ。ローブと……私を改心させてくれた、心の師匠との再会だからね」


「何言ってんだよ、普通に友達で良いだろ?」


「君がそう言うのであれば、な。そうだローブ、また暇があれば……今度は元パーティーの、エイロゥとビソーを連れて行っても良いかい?」


「俺は大丈夫だけど、ビソー達が嫌がるんじゃないか?」


「そこはまぁ、上手く騙すとしよう。好き嫌いは置いといて折角の知り合いだ、交流を残しておくのも悪くない筈さ」


「まあソルマが連れてくるなら良いけどさ……」


「お待たせぇん、おつまみ出来たわよぉん!」


 アムルンさんが幾つかの料理を、大きな皿に乗せて持ってくる。

 俺達は会話を中断し、それぞれのグラスを手に取った。


「まあ、細かい事は後にして今日は飲むか」


「ああ、そうするとしよう」


「「乾杯」」


 久しぶりに男友達との酒を楽しむ。

 ソルマとこうやって仲良く酒を飲むなんて、1年前じゃ考えられなかったけど……うん、悪くない。

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