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来訪者と昼食を作る盗賊

 模擬戦を終えた俺とソルマは、屋敷の裏にある畑で野菜を収穫していた。

 辺境の俺達は暇つぶし兼食料確保として、畑で野菜や果物を育てている。

 それをソルマとの昼飯に使おうと思ったんだ。


「これは見事な畑だな……良いのか? 私の昼食の為に、わざわざ収穫してもらって……」


「全然構わないよ。メシアと無鬼(ナキ)のスキルで、楽して育てている物だしな。畑とかは雰囲気だけで、苦労して育てているってわけじゃない」


「そんなスキルもあるのか……少々興味深い」


 因みに野菜や果物の種は、シーリアスのコネでパトリオット王国から仕入れた物となっている。

 決してシーリアスは何もしていない、という事は無い。

 まあ種は最初だけあれば充分なので、その後は……うん、よく畑に声をかけていると思う。


「ソルマ、食べたいメニューはあるか? あれからかなり料理を練習したし、パーティー時代よりかなり上達していると思うぞ」


「いや、私に作らせてくれないか? 実は君に負けた日から、ソロで冒険しているから料理もそれなりに練習していてね。昔のお詫びも兼ねて、是非とも私に作らせてほしい」


「いやいや、やっぱソルマはお客さんだからな。ここは俺に作らせてくれよ、もうマズいなんて言わせないよ」


「古傷を突いて、遠慮させようとするのはズルいぞ。Ms.メシア達と出会って、随分と変わったようだな。君が見た事無いような、珍しい料理を披露してみせよう」


 俺達は一応ニコニコと笑い合っているが、お互いに一歩たりとも引く気が無い。

 こうなってしまったら、俺達冒険者がやる事はたった1つ。

 まあ、俺は冒険者を半分引退しているようなものなんだけど……まあ、今は良い。


「もう1回叩きのめして、その口に料理を放り込んでやる!」


(しの)ぎ切って疲れた体に、私の料理を披露してやるっ!」


「ええいっ、畑で二回戦をおっぱじめようとするな馬鹿どもっ!」


 再び模擬戦を始めようとする俺達の頭に、シーリアスが拳骨を落とす。

 更にその場で30分ほど説教を受け、俺とソルマの2人で昼食を作る事になってしまった。

 いや最初からこうすれば良かったのに、何でこれが思いつかなかったかな……?


「じゃあ折角だし、東の国風ステーキでも作るか。ソルマ、付け合わせは作れるか?」


「ああ、任せてくれたまえ。東の国風でステーキか、どのような味になるか楽しみだ。代わりにデザートは私がメインで作ろう、海に近い観光地で食べられている氷菓子をね。牛乳や卵はあるのかな?」


「ああ、メシアの【転移魔法】で直ぐに用意出来るよ。もしかしてその氷菓子って、アイスクリームってやつだよな? その観光地には行ったけど、食べられなかったんだよな……楽しみだ」


「好みだったら、レシピを書くよ。それではローブ、早く作って君の奥さん達を満足させるとしよう」


「奥さん達……まあ、そんなに間違ってないか。じゃあ、早く作ろう」


 俺達は適当な雑談をしながら、テキパキと昼食の用意をしていく。

 味方から盗む(フレンズスティール)についてとか、ソルマの冒険の話とか色々な事を話した。

 何と言うかこうして話していると、同年代の友達が出来たみたいで嬉しい。


「さて、こんな感じか。後はこれを冷やしておいて、食べる直前で取り出したい。出来るかな?」


「メシアから【氷魔法】を借りれば、氷の箱が作れるからそうしよう。東の国風ステーキも、東の国のスープも完成したし早速食べよう」


 俺とソルマが食卓に料理を運ぶと、匂いに釣られてメシア達がやってくる。

 全員が席に着き、食事の挨拶をしてから俺達は食事を取り始めた。


「東の国の味付け……ローブ、本当に好きだね……と言いつつ、ワタシも好きだけど……」


「付け合わせも非常に美味だが、食べた事が無いな……これはもしかしてソルマ、貴様が作ったのか?」


「口にあったのならば何よりだ。自分が作った料理を美味しいと言ってもらえるのは、やはり嬉しいものだね」


「何と言うか上品な味付けじゃのう。お主、貴族か何かか?」


「元と、貴族の前に付くがね。今の私はただ1人の冒険者ソルマだ、もう苗字は名乗れない」


 ソルマの答えに、俺とシーリアスは少しだけ食事の手を止めてしまう。

 そうか……あの決闘の後、ソルマはヴィーラー家を追い出されてしまったのか……

 覚悟していた事ではあるけれど、改めて本人の口からキツイものがある。


「っと、失礼。暗くなる話題だったな、それにこういった雑談の前にしっかり本題を話しておかないと」


「このままだと……お酒飲んで、ローブと遊んで……ご飯食べに来た、冒険者……」


「Ms.メシアの言う通りだ。私が苦労してここを探したのは、ローブに警告をしておこうと思ってね」


「警告って……何があったんだ?」


 ソルマの真剣な表情に、俺達は食事の手を止めた。

 一応パトリオット王国では追放後に、行方不明になっている俺達。

 そんな俺達をわざわざ探し出してまでしにきた警告、気を引き締めざるを得ない。


「パトリオット王国から、ダンモッドが姿を消した。彼は私のパーティーの中で、最も君を恨んでいる者だからね……どうしても伝えなければならなかった」


「ダンモッドか……そう言えば、アイツのスキルも盗んでなかったからな……」


 ダンモッドが姿を消したか……それはちょっと、気になってくる。

 最悪、先に動いて潰しに行くのも……考えて良いのかもな。

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