来訪者と模擬戦を行う盗賊
「ならば開始の合図は妾が出してやろう。2人とも少量とはいえ酒も入っておるし、はしゃぎ過ぎぬようにな?」
俺とソルマが向かい合うと、無鬼がグラスを持って間に立つ。
無鬼の言う通り、酔いで力加減が僅かに狂うかもしれない。
その僅かな誤差でも、俺の能力値では酷い事故を起こす可能性もある。
「勿論、そうならないように気を付けるとも。とは言え私は『剣士』として、剣を使わせてもらうがね?」
「ああ、構わない。折角だし俺もノーフォームを使いたいけど、アレは家の中に……ん?」
俺の手の中に、何時の間にか球体のノーフォームとメダルを入れた小袋が握られている。
家の方を見てみると、メシアがこっちを向いてピースしていた。
成程、流石は俺の相棒……考えてる事を見透かされている。
「久しぶりだね、Ms.メシア。少しお邪魔して、少しローブをお借りしているよ」
「うん、久しぶり……まあ、今の貴方なら……貸してあげる……」
「あの、本人の意思は……いや、まあ良いんだけどさ。俺も結構ノリ気だし」
小袋から剣のメダルを取り出し、ノーフォーム片手剣に変形させた。
更に味方から盗むによって、シーリアスの【王女の剣】で青い水晶剣を左手に取る。
手加減するつもりは全く無い、俺は全力でソルマの全力を受け止めるつもりだ。
「二刀流か……しかもその水晶剣は、スキルによって作られている。不思議なスキルを手に入れたようだね」
「これに関しては、手に入れたんじゃなくて借りてるんだ。まあ、後で説明するよ。それより今は……」
俺とソルマは互いに構え、睨み合う。
自然と口角が上がり、酔いと興奮で心臓の鼓動が速い。
こんな風に戦いが楽しめるようになったのは……無鬼の言った考え方で言えば、ソルマのおかげかもな。
「2人とも、準備は出来ているようじゃな? それでは……始めるのじゃっ!」
無鬼の開始の合図で、ソルマが一気に走り出す。
対する俺は2本の剣を構え、どんな動きをしてくるのか見極める為に待った。
「左手に剣……右手の義手に何も持っていない……?」
確かソルマは右利きで、右手に剣と左手に盾を持つ基本的な構えだった筈。
さっきの動きの確認からして、義手はそこまで悪い物じゃない。
むしろ逆に高性能だからこそ、右手を自由にしているのか……?
「受けてみろっ!」
「おっとっ!」
目の前に来たソルマの最初の一撃は、義手による強烈な右拳だった。
両手の剣を交差させ、刀身でソルマの拳を防ぐ。
しっかり踏ん張っていたというのに、少しだけ後ろに押されてしまった。
「この程度か、君の防御を崩す自信があったのだが」
「いやいや、俺を少し押し下げるだけで充分だろ……?」
一応俺はダンジョンマスター数匹分の強さを凝縮した、とんでもない能力値の塊の筈。
まあその割には戦いで、ボロボロになる事も多いけど……
今度は俺から前に出て、両手の剣を駆使して舞う様に斬りかかる。
「やはり、一撃一撃が……重いっ! ギリギリで逸らすのが、精一杯だ……くぅっ!?」
「本当に凄いよ、あの決闘の時とは比べ物にならない。だからもう少し、強く行く……!」
ソルマの強さに尊敬し、俺は剣を振るう速度を上げて込める力を増やしていった。
更に今では剣だけで攻撃していたが、蹴りや拳を交えていく。
それでもソルマは防ぎ、受け流し、的確に凌ぎ続けていた。
「くっ、【剣技】七宝斬っ!」
「じゃあこっちもだっ!」
止まらない連撃の隙を突き、ソルマが円と星の煌めきを描く派生技で打破しようとしてくる。
だが俺はメシアの【宣言破棄】を借りて、同じく円と星の煌めきを描いて全て相殺した。
同じ派生技ならば、後はお互いの能力値勝負になってしまう。
結果として俺が押し勝ち、ソルマは体勢を崩した。
「これが私の奥の手だっ!」
「なっ!?」
ソルマが右拳を何とか俺に向けると、義手が勢いよく撃ち出される。
その予想外の奥の手に思わず固まりかけるが、背骨を折るように上体を無理矢理逸らして躱した。
その一瞬はソルマが体勢を立て直すのに充分だったようで、既に左手の剣を振りかぶっている。
「刃よ、届けっ!」
ソルマの剣が、体を起こした俺の頭に迫っていた。
【爪技】の火焔爪で迎撃も間に合いそうにない、だったら!
「っ!」
「歯だとっ!? なっ!?」
ソルマの刀身を噛んで受け止め、そのまま首を振って投げ飛ばす。
地面に倒れるソルマに両手の剣を投げつけ、左腕の袖と右足のズボンの裾を地面に縫い付けて動けないように固定した。
トドメに獣王爪斬で巨大な獣の腕を作り上げ、ソルマの喉元に突き付ける。
「ソルマも強くなっていたけど、俺もまだまだ強くなっている。上には上が居るって、あの魔王が体に叩き込んできたからな」
「フッ、それがローブらしいよ。そんな君だからこそ彼女達は支えてくれるのだろうし、私もこうして変わる事が出来た」
ソルマの拘束を解き、手を貸して助け起こした。
意外な驚きがあって、シーリアスとの模擬戦とは違う楽しさがある。
また、模擬戦出来ると良いな。




