表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/100

来訪者を受け入れる盗賊

 その赤い髪と右腕を失った姿を、俺が忘れる筈がなかった。

 左目を潰され、歴戦の風格を漂わせているけど……面影がかなり残っている。

 滅多に人が来ない、辺境の地までやってきたのは……


「探したよローブ、久しぶりだね?」


「ソルマ、まさかお前が来るなんて……」


 俺をパーティーから追放した、あのソルマが俺の前に居る。

 あまりにも突然の事で、そして意外過ぎてちょっと呆然としてしまった。

 あの時の決闘で怒りは吹っ切ってしまったので、驚き以外の感情が出てこない。


「ソルマァッ、何故貴様がここにっ!」


「シーリアス王女、いやシーリアス夫人とお呼びした方が良いかな?」


「ふ、夫人か。そ、そうだな……確かに、そうなるか?」


 シーリアスが勢いよく噛みつこうとしたが、ソルマの一言であっさりと撃沈してしまった。

 相変わらずソルマの言葉選びは、的確で凄い。

 顔を赤くしてくねくねし始めるシーリアスを放っておき、俺は臨戦態勢を解く。

 そんな俺を見て、ソルマは意外そうに目を見開いた。


「ハーティも警戒しなくて良いぞ。後で朝飯を持ってきてやるからな」


「…………驚いたな。君からは問答無用で、殴り掛かられると思っていたよ」


「今からでもそうした方が良いか? お望みなら、ぶん殴ってやるよ」


「いや、遠慮しておこう。それよりローブ、酒は飲めるかい?」


「酒は……まあ、少しは。まさかこんな昼から、飲むつもりか?」


「私は家に入らない方が良いだろう。君が私と飲んでくれるのであれば、外で飲まないか?」


「まあ、良いよ。こんな感じで良いか?」


 俺は指を鳴らして【土魔法】を発動し、簡易的な土の椅子と机を用意する。

 ソルマは何の疑いも無く腰掛け、荷物から綺麗な琥珀(こはく)色の液体が入った瓶を取り出した。

 俺も席に座ると家から誰かが出てきて、俺達の方へとやってくる。


「ローブよ! 妾に隠れて酒を飲むとはズルいぞ! そこのお主、妾にも飲ませるのじゃ!」


「おい無鬼(ナキ)……悪いソルマ、コイツも一緒に良いか?」


「構わないが……子供に飲ませても良いのかい?」


 俺が【土魔法】で隣に椅子を追加してやると、グラスを3つ持った無鬼(ナキ)が座った。

 そう言えば無鬼(ナキ)とソルマは、初対面だったっけ?

 無鬼(ナキ)は基本的に子どもの姿だし、間違われても仕方が無い。


「ソルマ、数千年前に魔王が討伐されたって話は分かるか?」


「それなら勿論、知っているが……」


「その魔王がコイツ」


「うむ、元魔王じゃ」


「…………ちょっとグラスをくれないか」


 無鬼(ナキ)からグラスを受け取ったソルマは、持参した酒を注ぐ。

 そして中身を一気に飲み干し、グラスを叩きつけた。

 あの冷静なソルマが、情報を受け止め切れずに酒を一気飲みしている……


「もう一度言うが、お前の目の前に居るこの子供が元魔王だ」


「魔王時代の名は酒吞(シューテン)、今はローブから授けられた無鬼(ナキ)という名を名乗っておる。お主は……」


「失礼、Ms.無鬼(ナキ)。私はソルマ、ローブのおかげで過ちに気付けた愚かな冒険者さ」


「おおっ、お主がソルマかっ! シーリアスが酔っ払うと、よくお主の名を出して愚痴っておる。何やらローブを一党に招いておきながら、追放して痛い目に遭わされたとな」


無鬼(ナキ)、本人を前にそういうのは……」


「いいや、ローブ。これは事実だ、私は何時までも向き合わなければならない」


 俺はもう殆ど許しているけれど、そんなのは関係ない。

 ソルマにとっては、忘れちゃいけない大切な事なんだろう。

 そんなソルマの戒めを聞いて、無鬼(ナキ)はニヤリと笑いながら3つのグラスに酒を注ぐ。


「そうじゃのう。ローブはソルマを許し、ソルマは己を許さぬ。そのくらいが丁度良い関係じゃ。それに、面白い考え方もある」


「ほう、面白い考え方とは?」


「ソルマがローブを追放したからこそ、メシアと出会い【盗む】を覚醒させた。シーリアスが本音を言ったからこそ、今こうしてお主らは酒を飲める程関係が緩和しておる」


「確かに……そう言えるのかも?」


「こじつけにも聞こえるが、その言葉に救われる自分も居るな。成程、ローブとMs.メシアの出会いは私がキッカケか……感謝するよ、Ms.無鬼(ナキ)


「プハァッ……礼は言葉でなく、酒で示すのじゃ。ほれ、杯が空になったぞ?」


「おっと失礼、おかわりを注がせていただこう。ローブもどうだ?」


「まあ、いただくよ」


 無鬼(ナキ)のコップにグラスが酒を注いでいる間、俺は自分の酒をゆっくりと飲み干した。

 ソルマが俺のグラスにも酒を注ぎ、俺達は軽く一息吐く。

 あのソルマが俺を探した理由が、こんな風に酒を飲む為だけな筈がない。


「ふぅ……外で飲む酒も、美味しい物だな」


「ソルマ、そろそろ本題に入ろう」


「……そうだな、本題に入ろう。だがその前にだ」


 ソルマは立ち上がり、荷物から黒い義手を取り出して右腕に装着する。

 魔力を義手に通して動きを確認し、剣を片手に机から離れた。


「酔い覚ましに手合わせをしよう。私も1年前から、少しは強くなったんだ」


「はぁ……最近はシーリアスとしか、模擬戦してないからな。こういうのも悪くない……のか?」


 俺は飲みかけのグラスを机に置き、待ち受けるソルマの方へと歩きだす。

 あの決闘の時みたいな怒りは無い、純粋な技量の確認の手合わせ……ちょっと楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ