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一件落着した鬼女と女騎士と魔術師と盗賊

 完全に力を使い果たし、動けなくなった無鬼(ナキ)を抱えて遺跡の外に出る。

 そんな俺達を待ち受けていたのはハーティと……縛っていたロープから脱出した九尾だった。

 俺は無鬼(ナキ)をシーリアスに預け、皆を庇う様に九尾の前に出る。


「そんなに身構えなくても、あたしはもう戦うつもりは無いわ。どうやったか知らないけど、酒吞(シューテン)の力がかなり弱まってるしね」


玉藻(タマモ)、妾を古き名で呼ぶな。妾は今、無鬼(ナキ)という名前をローブから貰ったのじゃ」


「ローブ君、ね? ふぅん……『勇者』の境地の『盗人』についていくんだ。じゃあこれであたしも、お役御免ね」


「まあ、なんじゃ……色々迷惑をかけたのう」


 無鬼(ナキ)が九尾の事を、玉藻(タマモ)って呼んでいた。

 もしかしなくてもこの人は、勇者の遺跡に書いてあった『九尾』の……

 俺の視線に気付いた玉藻が、俺の目を見てニヤリと笑う。


「君の考えている通りよ、あたしはそこの酒吞(シューテン)……無鬼(ナキ)と同じで数千年前の存在なの。勇者の遺跡に無鬼(ナキ)を封印して、もしも目覚めた時の為にあたしは近くで石になって眠っていたってわけ」


無鬼(ナキ)を封印……俺達には『勇者』が魔王を討伐したって伝わっているけど、何でそんな間違った情報になっていたんだ?」


「封印したという事を発表しても、人々にはいつか復活するのではと不安が残ってしまうからよ。だから情報は捻じ曲げられて伝えられた」


 確かに魔王が封印されていて、いつ復活するか分からないと国が緊張していたかもしれない。

 もしそうだったら、俺は今頃冒険者になれていなかっただろう。


「ちょっと待って……」


「メシア?」


「魔王を倒したとか……封印とか……どっちにしても、『盗賊』は活躍した筈……なら、何故『盗賊』は……嫌われる職業になっているの……?」


「人間からも能力値が奪えたからね……凶悪な能力と判断されて、危険視されたのよ。それで技の事は秘密にされ、悪い噂を流していたんだと思うわ。あたしは直ぐに石になったから、憶測なんだけどね」


「そっか……教えてくれて、ありがとう……」


 玉藻(タマモ)の回答に納得したのか、メシアはペコリと頭を下げた。

 メシアにひらひらと手を振ってから、玉藻(タマモ)は俺の方を向く。


玉藻(タマモ)はこれからどうするんだ?」


「んー……暫くは世界を旅でもしようかなーって。死んじゃったアイツらの、お墓とかのんびり探そうと思うの。無鬼(ナキ)の監視は、必要無さそうだしね」


「そっか……もしもパトリオット王国に来たら、メシアの家に遊びに来てくれよ。色々失礼な事を言った、お詫びしたいからさ」


「そんなの気にしなくて良いのに……でもそうね、今は君達があたしの唯一の知り合いだからね。うん、パトリオット王国ね? 寄った時は、是非遊びに行かせてもらうわ。だからしっかりおもてなししてね?」


「ああ、分かったよ」


「それじゃあもう行くわ。必ずまた会いましょう……それとあたしが言うのもなんだけど、無鬼(ナキ)の事をよろしくね?」


「お主は(わらわ)の母親かっ! まあ、元気での」


 玉藻(タマモ)無鬼(ナキ)の言葉を受けて、微笑みながら背を向けた。

 そのまま指を鳴らし、玉藻(タマモ)は何処かへ転移していく。

 これで本当に無鬼(ナキ)の問題は、解決したんだな。


「それでは一度、パトリオット王国へ戻るとしよう。『勇者』の真実や無鬼(ナキ)の事について、報告しなければならない。隠しておくのは不可能だからな……ああ、歴史がひっくり返ってしまうぞ……」


「なんかごめんな」


「すまぬのぅ……」


「メシア、そういう事で観光はまた今度になるけど良いか?」


「しょうがない……大体の場所は分かったから、転移で来られるようになったし……ワタシは、大丈夫……!」


 バカンスのつもりでメシアやシーリアスに休みを作ってもらったのに、(ふた)を開ければ普段のダンジョン攻略よりも大変だった。

 それにしても俺が『勇者』の境地か……未だにちょっと、信じられない。

 というかまず無鬼(ナキ)が魔王だっていうのも、戦った後でも実感が湧かないな。


「ハーティ、かなり待たせたな。無鬼(ナキ)と仲直りしてきたぞー!」


「無茶をさせてしまったのぅ……ハーティ、すまぬのじゃ」


 無鬼(ナキ)が落ち込んだ表情で謝ると、ハーティは気にするなと慰めるように頬ずりをする。

 俺達はハーティの背中に乗り込み、ゆっくりと飛んでもらった。

 メシアの転移で帰っても良いのだけど、今は風を感じながらボーっと景色を見て帰りたい。


「ローブが発見した功績は、間違いなくこれまでの歴史を揺るがす大発見だ。もしかしたら、これからの歴史書に名が書かれるかもしれんぞ?」


「いや、残してほしくないんだけど……なんか『盗賊』のナントカさんって感じで誤魔化せないかなぁ……?」


「『盗賊』の時点で、バレると思う……」


「むふふ、そうなると妾の名前も載るのかのぅ?」


「載ったとしても、敵対した魔王としてだと思うぞ」


「何っ!? それは嫌じゃ……」


 俺達はくだらない事を話しながら、のんびりと時間をかけてパトリオット王国に帰る。

 王国に帰り、国王から俺達にある事が言い渡された。

 それは……


「『盗賊』ローブ、『魔術師』メシア、『女王騎士』シーリアス、そして魔王の無鬼(ナキ)……お前たち4人を、王国から追放する」


 俺にとって2回目の、追放宣言である。

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