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戦いを決意する鬼女と女騎士と魔術師と盗賊

 シーリアスが拳を受け止めた左腕を振り払って、無鬼(ナキ)を後ろに下げさせる。

 無鬼(ナキ)はシーリアスが攻撃を受け止めた事に、動揺を隠せていない。

 守る事に特化した職業とは聞いていたけど、まさかここまで凄いなんて……!


「ローブ、落とし物だよ……」


「ノーフォームを転移させてくれたのか、助かる……! 【回復魔法】ゴッデスヒール……!」


 メシアが差し出してくれたノーフォームを使って、俺は自分の腹の傷を塞いでおく。

 その間に無鬼(ナキ)が猛攻を仕掛けていたが、シーリアスが華麗に捌いていた。

 職業による能力値(ステータス)やスキルが無くても、ある程度の魔物とシーリアスは戦える。


「何故じゃっ!? 職業を手にしたばかりの素人に、妾が何故翻弄されておるっ!?」


「騎士団は対冒険者の技術を、重点的に鍛えている! 魔王であろうと人型でスキルを使うならば、殆ど冒険者と同じ様なもの!」


 シーリアスは無鬼(ナキ)の腕を取り、背中から地面に投げつけた。

 いや、本当に凄いな……シーリアスの技術は、無鬼(ナキ)にとって天敵らしい。

 無鬼(ナキ)は直ぐに起き上がり、シーリアスに手を向ける。

 そのまま見えない力が、シーリアスを後ろへと押し下げた。


「その桃色の鎧……お主の王女と言う肩書きで気付くべきじゃった。シーリアス、お主が『勇者』の境地に到達した最後の1人、『女王騎士』とはな?」


「ほう、自分の職業を知っているのか。ならば隠す必要もあるまい、自分は確かに『女王騎士』。魔力にて鎧や盾を作り出し、仲間を守る盾となるのが自分の役目だ」


「お主、何時の間に『女王騎士』を……それに技の熟練度も、かなり上がっておるな? その鎧を部分的に纏う技がその証拠」


 確かに職業神殿で見た時は、鎧と剣と盾がセットだった筈。

 だが今は無鬼(ナキ)の攻撃を受け止める為か、両腕にだけピンク色の鎧を着けていた。


「ローブと2人で国王である父上に挨拶というのが嘘、その時に『女王騎士』を授かった。そして熟練度に関してはローブと無鬼(ナキ)が東の国へ向かう間、メシアに頼んで大急ぎで鍛えさせてもらっている」


 そうか、東の国に向かうまでの数日間……メシアとシーリアスが何もしないわけがない。

 きっと直ぐにでも追いかけたい気持ちを抑えて、必死に『女王騎士』のスキルを鍛えてくれたんだろう。

 今のシーリアスは恐らく、俺よりも防御力が高い……!


「小手調べを数回、防いだ程度で良い気になるでないっ! これでも受けてみよっ!」


「【女王の盾】っ! ぐっ、うぅっ……!」


 無鬼(ナキ)が再び手を突き出すと、強烈な衝撃波が俺達を襲う。

 だがシーリアスが立ちはだかり、スキルの名を叫んでピンクの水晶の盾を作り出して衝撃波を受け止めた。

 少しだけ後ろに押し下げられるものの、シーリアスは盾でしっかりと攻撃を受けきる。


「ナイスだ、シーリアス! 【爪技】紫電勢爪っ!」


 シーリアスの脇を抜けていくように、右手の鉤爪を突き出して無鬼(ナキ)に突進した。

 だが次の瞬間、俺は腕を取られて地面に投げつけられていた。

 こ、これは……シーリアスの……!?


「甘いのぅ……完全な不意打ちでもないのに、当たるわけがないじゃろうに。お主はこれだから愛しいのじゃ」


 無鬼(ナキ)に首を持ち上げられた後、メシア達の方を向かせられる。

 首には腕をかけられ、声が出せないようにギリギリと締めあげられた。


「ローブッ、今自分がっ!」 


「動けばローブの首を落とす、動かぬ方が良いと思うぞ?」


 嘘だ、無鬼(ナキ)は俺が狙いなんだからそんな事はしない。

 だがこの脅しが効いてしまったようで、シーリアスは動けなくなってしまった。

 迂闊な突進をしてしまった俺のせいだ……どうにかして抜け出さないと……!


「落とせるものなら、落とせば良い……!」


「なっ、メシアッ!? 何を言っている……!」


 メシアが静かに言い放ち、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

 予想外の行動にシーリアスは動揺し、無鬼(ナキ)も小さく息を呑んでいた。

 そういう俺もかなり驚いている……まさかメシアが、そんな事を言うなんて……


「ほ、本気かメシアッ!? お主はローブを、好いておるのではないのかっ!? 何故そんな風に、前に出る事が出来るっ!?」


無鬼(ナキ)がそうやって、動揺するからだよ……貴方にローブは、殺せない……!」


「なっ、舐めるな……! 妾はローブを、この手で……この、手で……」


 無鬼(ナキ)の腕の力が緩んでいる……?

 メシアの言う通りに動揺しているのか、なら今の内に脱出するしかない……!


「【罠魔法】ゲイルトラップッ!」


「しまったっ、ぐぁっ!?」


 足元に罠の魔法陣を仕掛け、直ぐに爪先で叩いて作動させる。

 俺と無鬼(ナキ)の間に強烈な突風が産み出され、引き剥がす事に成功した。

 とは言えシーリアスの足元にゴロゴロと転がっていくような、無様な帰還ではあるが。


「ローブ、大丈夫かっ!?」


「あぁ……まあ、何とかな」


 シーリアスの手を借りて、俺は直ぐに立ち上がる。

 俺は地面から起き上がる無鬼(ナキ)を見つめ、鉤爪のノーフォームを外して放り投げた。


「ローブよ、何故武器を捨てる? 光が宿るその目は、諦めたわけではあるまい」


「『盗賊』は素手で戦うものなんだよ。無鬼(ナキ)、お前が溜め込んできた感情や鬱憤、全部俺達にぶつけてこいっ! 全身全霊を持って応えてやるっ!」

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