真相を知った盗賊
ノーフォームに杖メダルを嵌めこみ、杖形態にして【回復魔法】を使う。
九尾にはかなり頼りないだろうが、一応ロープで気絶させた九尾を縛っておいた。
「その狐を、生かしておくのじゃな」
「九尾は九尾なりに、理由があって邪魔しに来たんだろうしね。俺は別に殺すつもりは無いよ」
「お主を殺そうとしたのじゃぞ?」
「殺されそうだったからって、殺す気にはならないよ。無鬼の記憶を取り戻してしまえば、九尾も諦めるだろうしさ」
「そうか……そうじゃな。ではローブよ、約束通り……」
「ああ。まずは俺が1人で、勇者の遺跡を見てくれば良いんだろ?」
「うむ、そうじゃ。妾はここでハーティと待っておる」
無鬼とハーティに見送られ、勇者の遺跡の中に入っていく。
中はとても暗く先が見えないので、プチファイアで照らしながら奥へと進んだ。
ここが勇者の遺跡か……ここに無鬼の正体や、『勇者』の境地についての情報がある筈。
「広い部屋に出たな……あ、壁に何か書いてある。これを読めば良いのか?」
石の通路をゆっくり歩いていると、広い八角形の部屋に出た。
周りを見渡しても扉や通路が無いので、壁際に近付くと何か文字が書いてある。
プチファイアの炎を近付け、文字を読む事にした。
「えっと、なになに……『勇者』の境地とは。魔王が現れそうになった時、稀に特殊な『職業』や【スキル】、または派生技に目覚める事である。そうか、成程な……!」
俺はてっきりスキルの事だけだと思っていたけど、『職業』や派生技も入っている。
スキルと言えばやっぱり、メシアの【宣言破棄】や【転移魔法】だ。
『職業』はシーリアスが手に入れた未知の職業、派生技は俺の【盗む】が当てはまる。
「隣の壁に続きがあるな、どれどれ……最初の魔王を倒したのは『盗賊』、『魔術師』……何か文字が掠れているけど、『騎士』って書いてあるのと、『九尾』……『九尾』っ!?」
『九尾』って、俺がついさっきまで戦っていたあの九尾!?
というか『九尾』ってアレ、『職業』扱いで良いのっ!?
……そう言えば夢の中に、あの九尾が味方として出てきていたしな。
「ん? この壁には文字が書いてないぞ。代わりに絵が描いてあって……鬼人の絵だ。片角が折れて、大人の姿だけど……じゃあ絵が意味するのは、やっぱり――」
「妾が魔王……じゃろ?」
「え……無鬼……?」
壁に描いてある絵を見て無鬼の正体を確信していると、背後からその本人の声がする。
俺がゆっくりと振り向いた次の瞬間、腹部に何かが突き刺さった。
邪悪で強大な魔力の気配と、俺の能力値を貫いた不意打ち……
「ここまで妾を運んでくれて、感謝するぞローブ。最後にお主の、精気と魔力をいただくぞ。この絵の姿に、戻る為にな……?」
俺の腹に突き刺さる無鬼の腕が、心臓を直接掴んでいる。
心臓を握りつぶされてしまいそうな恐怖に、腹の痛みを気にしていられない。
精気と魔力を吸い上げられ、俺は立つ事すら辛くなってくる。
「やっぱり九尾の【追跡魔法】を外した時から……記憶が戻っていたんだな……?」
「おや、バレていたんじゃのう。そうじゃ、あの時に妾は記憶を殆ど取り戻していたのじゃ……むふふ、馳走になったぞローブ」
無鬼が腕を引き抜くと、足に力が入らず壁に背を預けて座り込んだ。
俺から吸い取った精気と魔力を使い、無鬼は壁の絵と同じ大人の姿を取る。
杖のノーフォームで【回復魔法】を使おうとしたが、無鬼に奪い取られ遠くに投げ捨てられてしまった。
「お前は……数千年前に討伐された、魔王って事で良いんだよな……?」
「うむ、そうなるのう。妾が始まりの魔王、酒呑という名じゃったが……無鬼と呼べ。妾はこっちを気に入っておるからのう」
「あはは……気に入ってもらえたなら、嬉しいな」
無鬼が魔王だったのなら……俺の【盗む】やメシアの【転移魔法】を見て懐かしいと言ったのも納得出来る。
俺らのスキルを実際に、魔王として使われてきたのだろうから。
「逆に、ローブよ。お主が妾を魔王だと気付いたのは何時じゃ? 先程も呟いておったが、妾を魔王だと気付きながらも連れてきてくれたのじゃろう?」
「一番最初に気付いたのは……パトリオット王国で、東の国について調べた時だ。魔王は東の国で生まれたという文献を見て、最初は九尾と魔王を結び付けていたけど……一瞬だけ無鬼かもって思ったよ」
「ほほう、あの時には既に、か……確信を持ったのは何時じゃ?」
「さっきだ。【子守歌】で眠らされた時に、大人の無鬼と戦っている夢をそれでね。あの九尾も味方として居たし、あれで気付かない方が難しい」
「夢、か……それは間違いなく、妾の記憶じゃろう。お主が『勇者』の境地に到達した事で、妾の封じられた記憶が、お主の夢に漏れたんじゃな。だから妾も、お主の技でほんの少し記憶を取り戻せたのかもしれんのう」
やっぱりあの夢は、無鬼の影響だったのか。
『勇者』の境地と魔王の記憶が共鳴した結果、そう考えて良いだろう。
「俺を……『勇者』の境地に目覚めた奴らを、殺すのか……? だとしたら、俺はここでお前を止める……!」
「殺すつもりならば、お主の心臓から手を離さぬのじゃ。安心せい、妾はもうメシア達に何かをするつもりは毛頭ない」
「じゃあ――」
「ただし、お主は攫って行くつもりじゃがのう?」
俺を……攫う?
無鬼は一体、何を考えているんだ……?




