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何とか勝利した盗賊

 九尾が手を(かざ)すと、俺の周囲で炎が渦を巻き始めた。

 その激しい勢いに、身動きが取り辛くなる。

 また魔力を込められない炎……魔力を盗む(マジックスティール)じゃ無効化出来ない。


「【剣技】旋風斬(せんぷうざん)っ!」


 その場でぐるりと回転しながらノーフォームを振るい、派生技を放った。

 周囲の炎を薙ぎ払うと、炎の渦は散り散りとなって消えていく。

 炎って意外と気合だけで斬れるもんだな。


「意外と早く出てくるのね? それじゃあ次はこれよ、流石の君でも厳しいんじゃない?」


「クソ……ッ!」


 炎の渦を抜け出した俺を取り囲むように、9人の九尾が待ち受けている。

 それぞれの尾の先に【狐火】が灯り、怪しく揺らめいていた。

 流石に全部直撃すれば、無事じゃ済まないな……!

 けど、ノーフォームを盾に変える時間も無いぞ……!?


「つまらないから、死なないでよねっ!」


「チィッ、【土魔法】アースッ!」


 俺は直ぐにその場にしゃがみ込み、左手を地面に当てる。

 派生技の名前を叫ぶと、俺の周囲の地面が一気に減り込んだ。

 そのまま大量の熱気が、頭上を通り越していくのを感じる。


「【土魔法】で咄嗟の回避は良いけれど、それって逆に危険じゃない?」


 穴の中を覗き込んでくる9人の九尾が、手を上に掲げていた。

 数秒で巨大な火球が完成し、俺が作った穴の中にゆっくりと落とされる。

 【土魔法】で今度は横穴を掘るか……いや、穴の底で炸裂されて、生き埋めにされるだけだ。

 考えろ、どうすれば切り抜けられる……?


「やっぱり、真正面から突っ込むしかないか……! 【同時発動】、【爪技】獣王爪斬×【爪技】紫電勢爪ッ!」


「この特大の【狐火】に、自ら突っ込むなんて……自殺行為よ? そこまで馬鹿だったなんて」


 左手に連動して動く巨大な獣の腕を作り出し、紫の魔力を纏って火球の中に突っ込んでいった。

 獣の腕が火球の中に刺さり、俺の左腕に焼かれていく痛みが走る。

 だがそれでも俺は獣王爪斬を押し込み、更に激しく横回転を加えた。


「うらぁぁぁぁああっ!」


「嘘……本当に貫くというの……!?」


「貫、いた……っ! 【剣技】旋風斬っ!」


 火球を何とか貫いて穴を飛び出し、ノーフォームで周囲を薙ぎ払う。

 穴を囲んでいた9人の九尾を斬りつけ、本物以外の九尾は霧散していった。

 残る最後の1匹はギリギリで後ろに避けようとしたらしいが、腹の部分に赤い線が走っている。


「くっ……やはり『盗人』は、能力値(ステータス)任せの馬鹿みたいな戦い方をしてくるわね……!」


「ハァ、ハァ……左腕を焼いたのに、かすり傷1つかよ。こうなったら、もっと頑張るしかないな」


「これはこれは、遊び甲斐があるわ。勝てると思い込んでいる馬鹿の心をへし折るのは、いつの時代でも最高の娯楽だもの」


 俺は一気に前に出て、九尾は大きく後ろに退いた。

 牽制のように放たれる小さな火球を、しっかりと見極めて躱しながら迫っていく。


「こうなったら……【同時発動】、【盗む】視線を盗む(ゲイズスティール)×【罠魔法】ベアートラップ……!」


「しまったっ!? 足が……っ!」


 左手で九尾の視線を一瞬だけ俺に固定すると同時に、九尾の足を魔力の牙が噛みついて固定した。

 身動きが取れなくなった一瞬で距離を詰め、ノーフォームを振り上げる。

 このまま柄で殴って気絶させるつもりだったが……


「なっ、尻尾が……!?」


「追い詰めたから、油断したわね? どうせアイツから魔法が得意って聞いて、近距離戦は苦手なんて思ってたんじゃないの?」


 九尾の尻尾が伸びてきて、腕や足に絡みついて俺の動きを封じてきた。

 更に1本の尻尾が首に巻き付き、ギリギリと締め付けて呼吸が出来なくなる、

 なんて力だ……体が、動きそうに無い……!


「ぐっ……ぁっ……!」


「君が【蘇生魔法】を持っていたら、厄介だからね……このまま首と手足をへし折ってあげる」


 九尾が尻尾に力を込め、俺の体からミシミシと骨が軋む音が聞こえてくる。

 マズイ……首が絞められて、スキルが宣言し辛い……!

 完全に言えなくなる前に……アレを……!


「【盗……む】被害(ダメー)……()……(スティー)()……」


「きゃっ!? なっ、何っ!? 何でこんな急に、重くなっているの!? これは……【重力魔法】!?」


 俺は手首を必死に折り曲げて、九尾の尻尾に触れて何とか派生技を宣言する。

 無鬼(ナキ)が【神通力】で押し潰そうとする力が俺にかかり、驚いた九尾が僅かに力を緩めた。

 良し、後もう1つスキルを……!


「【罠魔法】……ギロチン、トラ、ップ……!」


 自分の足元に魔法陣を展開して、直ぐに発動させる。

 空中から鉄の刃が出現し、俺を拘束する九尾の尻尾を勢いよく叩き斬った。


「ああぁぁぁぁっ!? あ、あたしの尻尾がぁぁぁぁっ!?」


「これで、終わりだっ!」


「おぐぅっ!?」


 尻尾が切断された一瞬の隙を突き、九尾の腹に拳を叩き込む。

 九尾は大きく目を見開きながら、ゆっくりと地面に倒れ込んでいった。

 何とか1人でも勝てた……いや無鬼(ナキ)の力を借りていたから、1人じゃない。


「見事じゃ、ローブ! これで勇者の遺跡に入る事が出来るぞ!」


「ああ。無鬼(ナキ)が【神通力】をかけ続けてくれたおかげで、何とか勝てたよ……」


 勇者の遺跡か……これで無鬼(ナキ)の正体が、やっと分かる。

 東の国に来た目的を、果たせるんだ。

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