九尾に挑む盗賊
九尾の9つの尻尾の先に炎を灯し、9つの炎を同時に撃ち出してくる。
下手に剣を振るって、隙を突かれるわけにはいかない。
俺はノーフォームを構えたまま覚悟を決め、9つの炎を体に直撃させた。
「ぐっ、ぅ……【属性耐性】があっても、ちょっと効くな……!」
「あたしの【狐火】を受けて、ちょっと効くで済ませないでほしいんだけどね?」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべながら、更に尻尾の先から炎を撃ち出してくる。
無鬼が言っていた通り、九尾は魔法が得意なのは間違いない。
となるとノーフォームを両手で持つ、反撃狙いの待ちの構えは相性が悪いな。
「【爪技】紫電勢爪っ!」
左手をノーフォームから離し、九尾に突き出す事で紫色の魔力を纏って突進していく。
九尾はふわりと浮き上がり、俺の紫電勢爪を躱した。
【神通力】の見えない力で、空を飛んでいるのか……?
「さて、これはどうするの?」
九尾が片手を真上に掲げると、今度は上空に炎の輪っかが出現する。
さっきから薄々気付いてはいたけど、コイツ【宣言破棄】を持っているな。
派生技の宣言が無いと、後手に回るしかない……
九尾が仕上げと言うように指を鳴らすと、炎の輪っかの中心から炎の光線が発射される。
「【同時発動】、【爪技】防壁爪×【剣技】斬心撃!」
まずは左手を振り抜いて、爪の軌跡で炎の威力を分散させた。
更にノーフォームを振り抜いて剣の軌跡を置き、俺に迫る炎を分断する。
この【狐火】ってスキル、思っていたよりも戦い辛い……!
「技を上手く組み合わせて、器用に凌ぐわね。でも君の得意な【盗む】で防げないのは辛いでしょう?」
「烏天狗と言いお前と言い、どうやって魔力を含まない雷や炎を出しているんだか……正直キツイよ、本当に」
「そうよね、そうでなくては困るわ。さあ、君は何時まで持つのかしら?」
「勿論、お前に勝つまでだ……!」
ノーフォームを握り直し、空中に浮かぶ九尾を睨みつける。
勢いで啖呵を切ったのは良いけど、【狐火】や【神通力】を掻い潜って接近するか……?
【属性耐性】はダメージを減らすだけで、0にするわけじゃない。
無理矢理に突っ込んでいくのは、流石に不可能だ。
「君1人で出来る? 空を舞うアタシを、地に叩き落す方法があるの?」
「恥ずかしながら、俺には無いな。黙って見ているしかないよ」
「じゃあ、一体どうやって――」
「仲間がお前を叩き落とす所をさ」
九尾がハッとした表情をした瞬間、俺の背後で魔力が大きく昂る。
俺には空中を自由自在に飛び回れる相手と、戦えるような手段は無い。
でも俺はこの場に、2人の仲間が居る。
頼りになる相棒のハーティ、そして……
「【神通力】念導通! 落ちよ狐がっ!」
「うぐっ……【神通力】まで取り戻していたと言うの……!?」
もう1人、無鬼が居るんだ。
無鬼が九尾に右手を突き出し、【神通力】の派生技を宣言する。
真上から押し潰すように力をかけているようで、九尾の体がゆっくりと地面に近付いてきた。
「ローブよ、2度も裏切った妾にまだ力を貸してくれるか?」
「俺は裏切られたなんて思っていない、俺の力なら幾らでも貸すさ!」
「こんな事で、勝てるなんて思わないでよね。あたしだって【同時発動】を持っているの、【神通力】を相殺しながらでも君と戦うなんて造作もないんだから」
「そうだろうな。でも、戦う土俵には引きずり込んだ」
俺の言葉に、九尾は苛立ったように顔を歪める。
今自分で言ったけれど勝てるようになったんじゃなくて、これで戦えるようになっただけ。
【狐火】や【宣言破棄】による戦い辛さは、何も解決しちゃいない。
「戦う土俵に引きずり込んだ……ね。本当にそう言えるかしら?」
「どういう事だ? もうお前は、この剣が届く距離まで落ちてきて……」
九尾の瞳が怪しく輝き始める。
目を離さなきゃと思うのに、顔が動かせない。
九尾は一体、何を……?
「しまった! 【傾国】じゃ、その目を見るなっ!」
「もう遅いわ……これで君は、あたしの虜。さあ、そのまま剣をあの鬼人に突き立てなさい」
頭が上手く働かず……言われた通りに、フラフラと無鬼の方に歩きだす。
九尾の言う事に……従って良いのか……?
俺は今、何をしようとしている……?
「ローブよ、目を覚ませっ! お主、妾に力を貸してくれるのではなかったか!? 妾の記憶を取り戻してくれるのではなかったのか!?」
「無駄よ、君の声なんて彼には届かないわ」
剣を逆手に持ち、切っ先を無鬼に向けて振り上げる。
だが、胸の辺りがじんわりと熱くなってきた。
ハーティが無鬼を包み込むように、その場に蹲る。
胸の辺りが段々と熱さを増し……俺は動き出した。
「うぐっ……目を、覚ましたぞ……!」
「なっ、何をやっているのっ!? 自分で自分に剣を突き立てるなんて! あたし、そんな命令は出していないっ!」
自分の腹に剣を突き立て、胸の熱さと腹の痛みが俺の意識を取り戻す。
【傾国】と言うスキルで魅了されていたのか……?
危うく、取り返しのつかない事になる所だった。
「うっ……ぐっ! 【回復魔法】ヒール……!」
腹からノーフォームを引き抜き、傷口を【回復魔法】で塞ぐ。
もう一度【傾国】を受けてしまえば、同じ解除方法は出来ない。
ここからは九尾の目にも気を付けないと……!
「そう、そこまでして戦いを選ぶというのね? だったら、しっかりと苦しめてから殺してあげるっ!」




