鬼女に追いついた盗賊
飛び掛かってきた餓鬼の胴体を、ノーフォームで真っ二つにする。
その間に迫ってきた謎の女が、こちらに向かって勢いよく首を伸ばしてきた。
躱して首を掴み後ろに投げ飛ばすと、ハーティが炎で消し炭にする。
「俺の邪魔をするなぁぁぁぁっ!」
俺の必死の叫びに合わせ、背後でハーティが大きな咆哮を上げる。
周囲を取り囲む魔物が一瞬だけ怯む素振りを見せたが、直ぐに戦意を取り戻していった。
勇者の遺跡を目指す俺とハーティを、大量の魔物が行かせまいと阻んでくる。
「ハーティ、合わせろ! 【炎魔法】ファイアッ!」
左手を前に突き出して炎を撃ち出すと、ハーティの吐き出した炎が重なった。
勢いを増していく赤い炎が、多くの魔物を焼き尽くしていく。
しかし直ぐに水が降り注ぎ、炎を消し去った。
「『魔術師』みたいな事を出来るのも居るのか。俺の魔法じゃ、直ぐに掻き消されてしまう。やっぱり【爪技】や【剣技】じゃないと話にならない」
上から迫ってきた黒い竜の首を、ハーティの牙が捕える。
そのままハーティが噛み千切り、黒い竜は頭と体に分かれて地面に転がった。
「【剣技】両断っ! 次っ!」
走ってきた甲羅を背負った緑色の魚人に、剣のノーフォームを振り下ろす。
次の瞬間、正面には3匹の鎌を持った胴の長い獣が迫っていた。
「【爪技】裂爪っ! 退けっ!」
3方向から振るわれる鎌を無視し、俺は左手で空間を引き裂く。
強烈な風が引き起こされ、3匹の魔物を纏めて吹き飛ばした。
そして今度は頭が牛の巨人と、頭が馬の巨人が素早く挟み込んでくる。
「チッ、次から次に……【同時発動】、【爪技】獣王爪斬×【爪技】獣王爪斬っ!」
体の正面で腕を交差させ、巨大な獣の腕を交差させた状態で出現させた。
そのまま力強く振り払えば、巨人の体を細切れにしていく。
更に先程とは比べ物にならない程の強風が、取り囲んでいた魔物を次々と上空に巻きあげていった。
「【爪技】爪竜描画っ! 喰らい尽くせっ!」
俺はノーフォームを地面に突き刺し、両手を使って空中に何度も爪を振るう。
爪の軌跡を集めて作り上げた竜が解き放たれ、打ち上げた魔物達を触れるだけで削っていった。
「良し、道が開いた。行くぞハーティッ!」
俺はハーティの背中に飛び乗り、勇者の遺跡へと急ぐ。
だが大きな影が目の前に現れ、俺達は止まらざるをえなかった。
顔が3つ、腕が6つの巨人……確か名前は、阿修羅!
「「「悪いがここは、通せんなっ!」」」
「いいや、通させてもらうっ! 【同時発動】、【爪技】獣王爪斬×【爪技】獣王爪斬っ! うおおおおおおっ!」
巨大な獣の両腕を大きく開き、挟み込むように腕を振るう。
だが阿修羅は6つの腕で、獣王爪斬をガッシリと受け止めた。
こうなってしまったら力で押し切るか、それとも……
「「「ぐぅっ……何と強力な攻撃、だが負けるわけには……っ!」」」
「今だっ!」
阿修羅が獣王爪斬に対抗しようと力んだ瞬間、俺は敢えて獣王爪斬を消す。
6つの腕を開き切り、がら空きとなった胴体に向けて飛び上がった。
背中のノーフォームを手に取り、両腕で振り上げる。
「【剣技】竜爪斬っ!」
全力でノーフォームを振り下ろすと、3つの軌跡が阿修羅の体を切り裂いた。
まず6つの腕が切り離され、最後に阿修羅の体が縦に裂ける。
崩れ落ちていく阿修羅を置いて、俺は勇者の遺跡を目指して駆け出した。
「ハァ、ハァ……やっと見つけたぞ、無鬼ッ!」
やっと辿り着いた遺跡の前で、俺は無鬼を見つける。
無鬼の前には九尾が立っており、乱入してきた俺を見て小さく溜息を吐いた。
「ローブッ!? 何故お主がここにっ!? 【子守歌】で3日は目を覚まさない筈じゃが……!」
「俺には【状態異常耐性】がある。ここまで巻き込んでおいて、今更仲間外れなんて寂しいだろ?」
「阿修羅を破ってきたのね? 一応、【通りゃんせ】による結界も貼っておいたのだけど……」
「今の俺は、無鬼の記憶を取り戻すって強い意思でここに来ているんだ。惑わされるわけがない」
俺はノーフォームを両手で持ち、切っ先を下に向けた反撃狙いの構えを取る。
戦う意思を見せる俺に、九尾は尻尾の毛を逆立てさせた。
九尾の体から大量の魔力が溢れ出し、敵意を持った狐のような恐ろしい形相をこちらに向けてくる。
「……警告はしたわよ? もうここまで来られたら、あたしは君を殺すしかない」
「ハーティ、無鬼を守ってくれ……俺も言った筈だ、怪我をしたくなけりゃ引っ込んでろって」
俺はノーフォームを構えながら、ジリジリとゆっくり距離を詰め始めた。
九尾は背後に巨大な炎の球体を作り出し、俺との戦いに備えている。
これで最後だ……九尾を倒せば、無鬼の正体に確信が持てる筈だ。
「最終警告よ。それ以上前に出たら、あたしは君を殺すまで止まらない」
「お前は止まるよ。ここで俺に負けてな」
最後の一歩を、俺は小さく踏み出す。
九尾の背後の炎が凄まじい熱気を放ち、俺の方へと一気に迫ってきた。
「【剣技】一閃っ! かかってこいっ!」
炎の球体を真っ二つにし、俺は大きく叫ぶ。
これが無鬼に関する騒動の、最終決戦!




