追手を振り切る鬼女と盗賊
焚き火を見つめていると、結界の周りで1匹の餓鬼が見えたような気がした。
東の国の魔物を見かける用にはなってきたけど、餓鬼はこの辺りに居ない筈……
となると、あの御方が俺達を見つける為にこの辺りを探させているんだろう。
「【索敵】範囲最大……マズイな、結構多くの餓鬼が周囲に居る。無鬼、起きろ……起きるんだ」
「むぅ、ローブか……? もう朝なのかのぅ……? 妾は、もう少し寝ていたいんじゃが……」
「本当ならもう少し寝かせてやりたいんだけどな、そうも言ってられない。あの御方が、俺達を探しに餓鬼を放った」
「何じゃとっ!? 餓鬼が周囲に居るのか?」
「【索敵】で確認出来る範囲で、100匹は居ると思う。見つからない内に次の街に向かいたいんだ」
「うむ、分かったのじゃ。【通りゃんせ】を解除し、【かくれんぼ】を直ぐに発動させる。ローブよ、ハーティの準備を急ぐのじゃ」
「ああ、分かってる」
ハーティの方を見ると、既に目を覚ましていてこちらを見つめていた。
状況を察しているのか、荷物を口にくわえて準備している。
俺は焚き火の炎に砂をかけ、念入りに踏みつけて消火した。
「寝起きで悪いけど、飛んでくれるか? メシアが居ないし、無鬼の【かくれんぼ】もあるからそこまで急がなくて良いぞ」
俺が問いかけると、ハーティは任せろと小さく唸る。
降ろしていた荷物を直ぐにハーティに括り付け、俺は背中に跨った。
無鬼もやってきて手を伸ばすので、その手を掴んで引き上げる。
「それじゃあハーティ、無鬼がスキルを使ったらあっちに向かって飛んでくれ」
「……相変わらず、良い返事じゃのう! お主が妾を敵対する気持ちは分かるが、どうか力をかしてほしいのじゃ。行くぞ、【かくれんぼ】……!」
無鬼がスキル名を宣言すると、【通りゃんせ】による空気の歪みが解除された。
ハーティは大きく翼を羽ばたかせ、そのまま上空に舞い上がる。
だが、そんな俺達を待ち受けていたのは……
「服を着て、杖を持った……カラス人間が沢山……?」
「マズイ、烏天狗じゃ! 急げ、ハーティ! こ奴らは【索敵】を使ってくる!」
「【索敵】だってっ!?」
俺が叫んだ次の瞬間、周囲の烏天狗がゆっくりとこちらを向き始めた。
【かくれんぼ】が破られた……大量の烏天狗と正面から戦うのは、メシアの盾が無いし無理だろう。
だから、無理矢理振り切るしかない……!
「【あやとり】……! ローブよ、妾が魔力の糸で吹き飛ばぬようにするのじゃ! お主は攻撃を防ぐ事に集中せよ!」
無鬼のスキルによって、俺と無鬼の体が魔力の糸でハーティの体に括り付けられる。
これならハーティが全速力を出しても、吹き飛ばされる事は無い。
「守るのは苦手なんだけどな、仕方ない……ハーティ、全速力だ!」
その場に立ち上がった俺はノーフォームと盾メダルを取り出し、片手盾に変形させて左腕に装着する。
【盾技】はあまり熟練度を上げていないけど、【盗む】と上手く組み合わせれば防げる筈だ。
烏天狗の攻撃を防ぎつつ、出来れば遠距離攻撃で仕留めたい……!
「ローブ、来るぞ!」
「【盾技】敵意集中! 攻撃は全部、こっちの盾に頼むぞ!」
盾形態のノーフォームをしっかりと構え、烏天狗の敵意を集める。
烏天狗達は一斉に鳴き始め、持っている杖を空へと掲げた。
杖を持ってるから、やっぱり魔法系で攻撃してくる……!
「うぐぅぅぅぅっ! 何という衝撃じゃ、ハーティは大丈夫かのうっ!?」
黒雲が一気に空を覆い隠し、雷が俺達に一気に降り注いだ。
俺がノーフォームで雷を受け止めるが、その衝撃でハーティがガクリと高度を下げてしまう。
無鬼の心配そうな声に、ハーティは大きな咆哮で大丈夫だと答えた。
「悪いハーティ、雷が魔法じゃないから魔力を盗むで無効化が出来ないっ! 俺が何とか受け止めるから、衝撃に耐えてくれっ!」
「次が来るぞっ!」
「クソッ、【盾技】魔力円盾っ!」
ハーティへの負担を少しでも和らげる為に、俺は魔力の緑色の盾を空中に作り出す。
再び雷が降り注ぐが、作り出した魔力の盾が受け止めた。
ハーティが少しだけ高度を下げるが、それでもさっきよりはマシだろう。
「【同時発動】、【盾技】魔力円盾×【盾技】魔力円盾! 破れるもんなら、破ってみろよっ!」
俺は更に魔力の盾をもう1枚追加し、先に発動してしていた盾に重ねた。
挑発に乗った烏天狗が雷を激しくさせるが、2枚の盾がしっかりと阻む。
これで盾の事は暫く考えなくても良い、今度はこっちが攻撃する番だ。
「無鬼、烏天狗が居なくなるまで俺の視界に入るなよ……!」
「う……うむ、分かったのじゃ!」
「ハーティ、強烈な風で烏天狗を落とすから耐えてくれ……【同時発動】、【凶暴化】×【爪技】獣王爪斬……ぅああああぁぁぁぁっ!」
俺は奥の手として【凶暴化】を発動し、更に獣王爪斬で赤い獣の腕を作り出す。
ハーティと無鬼は視界に入れず、烏天狗だけを敵と定めれば問題ない。
全力で右腕を振るえば、獣の腕が連動して振るわれて強烈な風を引き起こす。
「ぐぅぅぅぅっ、何という強烈な風! ハーティ、頑張るのじゃっ!」
強烈な乱気流が烏天狗を次々と撃ち落とすが、ハーティも大きくバランスを崩してしまった。
それでもハーティは何とか立て直し、必死に加速してその場を離脱する。
敵として定めた烏天狗の姿が見えなくなり、俺の【凶暴化】が解除された。
「ハァ……ハァ……何とか、なったか……」
「う、うむ……少し休めるじゃろう……」
【凶暴化】の反動により、全身に強烈な痛みが駆け抜け膝を着く。
街ではなく森でキャンプを取ったのが、裏目に出てしまうなんて……
あの御方も本気って事だろう、ここが正念場になるな……!




