再び夢を見た盗賊
「アンタは何でそうっ、毎回毎回寝てるのよぉっ! 起きなさいっ!」
「うぎゃぁっ!?」
説教する声と共に、顔に固い何かが叩きつけられる。
痛む鼻を抑えながら目を覚ませば、メシアが鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
メシアは前の街に置いてきてしまったし、これは前の夢の続きか?
「アンタねえ、仲間が増えたってのにどうして昼寝してんのっ!?」
「えっ、あっ、そうなんだっけ!? えっと、その仲間は今何処に……?」
「ハァッ!? アンタそれ本気で言ってんのっ!? 今まで誰の膝を借りて寝ていたと思ってんのよっ!」
メシアの顔でこんな風に責められると、なんか凄い辛い……
とにかくゆっくりと体を起こし、俺に膝を貸してくれていた人物を見てみる。
もしこれが前回の夢の続きなら、『勇者』の境地に目覚めた仲間だっけ……って、この人は……
「シーリアス……?」
「……残念ながら、ワタクシはシーリアスという者ではありません。おはようございます、良く眠れましたか?」
「ちょっとアンタ、王女様の名前を間違えるなんて最悪よっ! ごめんなさい、この馬鹿には後でアタシがキツく言っておきますから! ホラ、アンタも謝りなさいっ!」
「す、すいませんでした!」
「いえいえ、謝らないでください。ワタクシは気にしていませんから」
そう言って目の前で穏やかに微笑んだのは、シーリアスの姿をした誰かだった。
普段の凛とした口調ではなく、とても丁寧で優しい口調に内心かなり驚いている。
この人もシーリアスと同じ王女か……ここまでくると、流石に普通の夢に思えないな。
「えっと、王女様も『勇者』の境地に目覚めているんだよな?」
「ええ、そうですね。預言者様のお話によると、ワタクシの護る力が魔王討伐の鍵になるとの事です」
「何を再確認してんのよ。分かり切っている事、聞くんじゃないっつうの。やっぱりアンタ、時々変になるわね……お仕置きで【雷魔法】を撃ち過ぎたかしら?」
「きっと、長い旅で疲れているのでしょう。ワタクシの膝を貸しますから、もう少し休まれたらどうです?」
「いや、大丈夫だ。心配かけてごめん」
メシアの姿をしている奴は、魔法を使おうとするし『魔術師』だよな。
シーリアスの姿をした奴は、護る為の力って言っていたし盾役を務められる職業だろう。
俺は恐らく、パーティーのリーダーの代役……で良いんだろうか?
「えっと、次の行き先は決まってるのか?」
「ハァ……それも忘れちゃってるのね」
「次は東の国を目指す予定です。そこに最後の仲間となる方、そして魔王が待っています」
「そうか、そうなんだな……」
夢の中でも東の国を目指している……本当に俺達の状況に近付いてきているな。
もしかしてこれは夢と言うよりも、何かの再現なのかもしれない。
例えば……数千年前に実在した、勇者パーティーの記憶とか。
キッカケは恐らく、『勇者』の境地……そう考えるしかない。
「にしてもアタシ達3人、『勇者』の境地に辿り着いた時点で勝てない魔物は居ないってレベルなのよ? それを3人も4人も集めないといけない魔王って、どれだけ強いのって話じゃない?」
「どれ程強い方でも、相性や運で覆されてしまう事があります。もしもが無い時の為に、預言者様は仲間を集めよと言ったのでしょう」
「……王女様の言う通りかもしれませんね。能力の事を考えたら、この馬鹿の力だけで充分な筈ですから」
そう言ってメシアが俺の頭を叩いてくる。
俺の『勇者』の境地ってそんなに凄いのか……
多分ここで言っている俺の力っていうのは、【盗む】の事で良いんだろう
「最終的に最も強くなる能力ですからね。能力値を盗めるなんて、普通ではありません」
「あれ、スキルは盗めないのか?」
「スキル? 盗めないわよ、自分の力なのにそんな事も忘れちゃったの? アンタは能力値を盗んで、攻撃、防御、支援をこなすパーティーの中心じゃない。今日のアンタは一段と変ねぇ……」
同じ【盗む】の話をしている筈なのに、スキルを盗むが存在しないなんて……
新たな疑問が出てきたところで、視界の端からゆっくりと白い光が現れる。
また中途半端な所で夢が終わりか……この夢、次も見られると良いな。
「…………まだ夜か」
瞼を開け、ゆっくりと体を起こす。
ハーティと無鬼はまだ眠っていて、周囲はまだ暗い。
無鬼の【通りゃんせ】による結界は機能しているようで、俺が仕掛けた【罠魔法】が残っている。
「充分休めたし、後は一応見張りでもしておくか……【炎魔法】プチファイア」
用意していた枝を集めて、再び焚き火をつけた。
明後日には東の国着いて……無鬼の正体や『勇者』の境地を知る事が出来る。
たった数日間の出来事だったのに、長かったな……
「なんだかんだ言って、俺は結構楽しかったんだけど……無鬼はどうだったのかな?」
俺は自分の胸に手を当てて、今までの事を思い出す。
不穏な感じもあるけれど、終わりが近付くのは寂しい。
とにかくまずは、無鬼を安全に勇者の遺跡に送り届ける。
その事に集中しないと……!
「無鬼と約束した状況に、ならないと良いけど……」
スヤスヤと眠る無鬼を見て、俺は少しだけ不安になっていた。




