鬼女を探していた女騎士と魔術師【シーリアス視点】
自分のせいで無鬼殿を、見失ってしまった。
2人きりでも特に怪しい素振りを見せず、油断し始めていた自分が悪い。
必死に街を駆け回ったが、無鬼殿は見つからなかった。
「シーリアス……見つかった……?」
「メシア……自分の方には見当たらなかった。ローブの方は、どうなのだろうか?」
「分からない……もしかしたら、部屋に戻ってるかも……ワタシ達は、一旦戻ろう?」
「すまないが、自分はもう少しこの辺りを探してみよう。メシアは先に、戻っていてくれ」
「…………分かった。でも、シーリアスのせいじゃないよ……気にしすぎちゃ、駄目だからね……?」
「ああ、気遣い感謝する……」
メシアはそう言って、宿の部屋へと転移する。
ああは言ってくれたが、間違いなく自分のせいだ。
職業を手にした事で、浮かれていたのかもしれない。
「もっと聞き込みをしてみよう。せめてこの街には居てくれると良いのだが……!」
しかしどれだけ探しても、街の人に聞いてみても無鬼を見つける事は出来なかった。
探し疲れて立ち止まり、とある施設が目に入る。
「魔物の預かり施設……ハーティ殿ならば、上空から探せるし匂いで無鬼殿を見つけられるかもしれない。施設を巡って、ハーティ殿を探してみるとしよう」
自分はハーティ殿の力を借りる為、目の前の預かり施設に入る。
こんな事になるのであれば、ローブからどの施設に預けたのか聞いておくべきだったな。
「いらっしゃいませ、魔物のお預かりですか?」
「いや、仲間の預けた魔物を探している。ローブと言う冒険者が、ブラックドラゴンを預けに来なかったか? 名前はハーティと言うのだが」
「ハーティさんでしたら、先程ローブ様本人が引き取られましたが……」
「何だとっ!? それは間違いないのかっ!?」
「はい……十分程前にここに来ました。『盗賊』の方が預けたドラゴン種の魔物は珍しいですから、忘れようがありません」
「そうか……他に何かないか? 彼が誰か探していたとか、何処に向かったとか……些細な事でも構わない」
「そうですね、ええと……ああっ、確か小さな女の子と一緒に居ましたよ。鬼人の女の子で、確か2本の角の内、片方が折れてしまっている子です。心当たりありませんか……?」
「あ、ああ……知っている」
ローブが先にハーティ殿を引き取っている……?
しかも無鬼殿と一緒にだと?
一体どういう事だ……先にハーティ殿を引き取って、準備を済ませたという事か?
「後は……ローブ様の様子が、少しだけおかしかったかもしれません」
「おかしかったとは、どのようにだ?」
「焦っていると見えるような、怯えているとも見えたような……見間違いかもしれませんが、昨日とは少しだけ雰囲気が違ったと思います」
「成程……すまない、時間を取らせてしまって」
「こちらこそ、お力になれず申し訳ございません」
「いや、かなり助かったぞ。これは礼だ、受け取ってくれ」
情報を提供してくれた受付に謝礼のお金を渡し、メシアが待つ宿に急いで戻った。
間違いない……ローブは既に、無鬼を連れてこの街を出ている。
いや出ているのではなく、無鬼に脅されて街を出させられたの方が正しい。
「メシアッ!」
「シーリアス、何か見つかった……?」
「見つからなかった、それどころか無鬼はローブと次の街に向かっているかもしれない」
「やっぱり、そうなんだ……部屋から、ローブの荷物だけ無くなっているもんね……」
「急いで馬を借りてくる。自分達も後を追いかけて東の国へ向かおう、ローブが危ないかもしれん!」
「落ち着いてシーリアス、焦るのは良くない……まずは落ち着いて、状況を整理するの……」
「しかし、こうしている間にもローブと無鬼殿は……」
ローブが危ない目に遭うかもしれないと言うのに、メシアは何故こんなに落ち着いていられる……?
自分が間違っているのか、それともまさか……メシアの偽物なのか?
いやメシアの言う通り、自分は落ち着くべきなのだろう。
「何でローブが、ワタシ達を置いて行っちゃったのか分からない……けど、これだけは言えるの……」
「ふぅ……なんだ?」
「ローブは絶対に、ワタシ達を裏切らない……何も残さずに行ったのは、必ず何か理由がある……!」
「それは……確かに、メシア殿の言う通りかもしれんな……」
自分が焦り過ぎていた……そうだ、あのローブが理由も無く自分達を置いて行くわけが無い。
よく考えればメシアが居るのだ、【転移魔法】で何時でも追いつく事が出来る筈。
メシアがこうやって落ち着いていられるのも、納得だ。
「それに、ワタシには……正確には、ワタシ達には……切り札がある……!」
「切り札……?」
「そう。だから、今は落ち着いて準備をするの……ローブを助ける為の、準備を……!」
「分かった。自分は少し、部屋で荷物の準備をしてこよう。何かあれば、直ぐに呼んでくれ」
「勿論……! だからそれまで、焦る気持ちを抑えて……待つよ、シーリアス……!」
「ああ、耐える時間だ……!」
だからそれまで、ローブが無事でありますように……!




