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準備を進める女騎士と盗賊

 シーリアスの謎の変身騒動から数十分後、俺達は職業神殿を後にしようとしている。

 扉に手をかけ、開けようとしたところで……


「ローブ君、少しよろしいですか?」


「大神官様、なんでしょう?」


「そう言えば、先程話していた『勇者』の境地という言葉。何処で見かけたのか思い出したので、伝えようと思いまして」


 俺達は、大神官様に引き止められた。

 確かに俺と大神官様は、資料室でそんな事を話していたような……?

 俺はシーリアスの職業によるゴタゴタで忘れていたけど、大神官様は思い出してくれたのか。


「わざわざすいません……それで、何処だったんですか?」


「ええ。確か東の国にある、勇者の遺跡で見かけた筈です」


 大神官様から出てきた場所の名前に、俺とシーリアスは思わず顔を見合わせる。

 まさか勇者の遺跡の場所が、俺達の次の目的地と被っているなんて……!

 凄い偶然だ……無鬼(ナキ)の問題を解決したら、行ってみるしかない。


「ありがとうございました。今度、行ってみようと思います」


「いえいえ、気にしないでください……そう言えば、ローブ君。君と一緒に居た、あの静かな『魔術師』の少女は……?」


「メシアの事ですか? 実は今、アイツとパーティーを組んでるんです」


「良かった、仲直り出来たんですね。ローブ君に『盗賊』を渡した日、仲違いをしてしまった君達が気がかりでして……」


「心配をかけてすいません……でも、俺達はもう大丈夫です」


「そうみたいですね、あの時よりも良い表情をするようになっていますから。また何か役立てる事がありそうなら、ここに来てください。私も力を貸しますから」


「ええ、ありがとうございます。それでは、また……!」


 微笑みながら手を振る大神官様、俺達は手を振り返して職業神殿を出ていく。

 後はドワーフのおっちゃんの所に行って、必要な物の買い出しもしなくちゃ。


「ローブは、あの人に職業を授けてもらったのか?」


「そうだな、あの人は職業神官のトップでね。『盗賊』しか選べなかった俺にも、職業やスキルの事を丁寧に教えてくれたんだ」


 他の神官が『盗賊』を選んだ俺を馬鹿にする中、大神官様だけは優しく励ましてくれて……

 職業神殿は辛い場所だけど、大神官様に会えたのはちょっとだけ嬉しい。


「ローブが優しい冒険者になれたのは、大神官様の影響もあるのかもしれないな」


「それは確かに……そうかも。アムルンさんの酒場を紹介してくれたのも、大神官様だしね。もしも大神官様以外に職業を授けられていたら……俺は今頃、こんな風に強くなれていなかった」


「……自分は、そうは思わないがな」


 シーリアスは優しく微笑み、俺の手を取って歩きだす。

 大神官様やアムルンさんに出会えなかった俺か……弱いのは間違いないとして、やっぱり優しくも無いと思うな。

 まあこんな事考えても仕方ない、大神官様やアムルンさん、メシアやシーリアスのおかげで今の俺はある。


「それにしても、シーリアスの職業……ここ数百年の資料を見ても出てこない、パトリオット王国で初めて授けられた職業だなんてな」


「ああ。だがスキルの構成的にパーティーを守る事に特化した、自分が狙っていた通りの職業である事は間違いない」


「【盾技】や【剣技】、シンプルで熟練度を上げやすいスキルがあるのも嬉しいな。問題はどんな派生技を覚えるか分からない、未知のスキルだけど……」


「確かにどんな派生技を覚えるかは分からんが、名前からして役に立たないスキルと言う事は無いだろう」


 確かにスキルの名前からして、扱いが難しそうな印象は無い。

 でもスキルによってはリスクを負ってしまうのがある、俺が使ってしまった【凶暴化】とかな。


「とにかくお目当ての職業は手に入ったし、パトリオット王国では東の国に行く準備を進めよう。おっちゃんの所と食料と、薬と……後は……」


「武具の手入れ道具も買いに行って良いか? 丁度、買い替えたくてな」


「ああ、分かった。のんびりと見る事は出来ないけど、店を回って行こう」


 シーリアスに手を引かれ、俺達は一番近くの店に向かい始める。

 こうやって手を繋いで、必要な物を買いに行っていると何と言うか……


「カップルを、通り越して夫婦みたいですね……」


「ふ、夫婦っ!? いや、まあ確かに自分とローブは許嫁になったのだし、いつかは夫婦になるのだが……ちょっと早いような?」


 シーリアスが奥さんか……真面目で優しい人だし、しっかり支え合っていけると思う。

 メシアとも仲が良いし、3人で仲良くやっていける筈だ……ちょっと申し訳ない気がするけど。


「それじゃあ今は、デートしようか」


「ああ、そうだな。デートするとしよう!」


 俺がそう言うと、シーリアスは繋いでいた手を離して腕を組んでくる。

 東の国に向かい始めたら、間違いなく気を抜けない時間が長い。

 今はその前に、ほんの少しだけ肩の力を抜いておこう。

 シーリアスが職業を手に入れて、荷物の準備をして……東の国に向かう準備、完了だ。

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