王国に急いで戻る鬼女と女騎士と魔術師と盗賊
ハーティの背に乗り、振り落とされないようにメシアの【盾魔法】でバリアを貼ってもらう。
観光地を急いで飛び出し、ハーティの出せる全速力でパトリオット王国に向かい始めた。
これで観光地に追手は行かないし、超高速移動で俺達を狙う事は難しいだろう。
「ハーティ! 俺達の事は気にせず、全力で飛ばし続けるんだ! 疲れたら【回復魔法】で治す、辛いと思うけど頑張ってくれ!」
俺の言葉に、ハーティは任せろと頼もしい鳴き声を返してくれた。
これで後は攻撃が来ないまま、パトリオット王国に辿り着けるのを祈るのみ。
もしも攻撃が来れば、俺とメシアが全力で防ぐ。
絶対に油断は出来ない……!
「西側の黒き四つ足竜……確か名はハーティじゃったか。凄まじい速度を出せるのじゃのう……!」
「ハーティの体への負担はデカいし、俺達が振り落とされないようにメシアは常に【盾魔法】でバリアを貼らなくちゃいけない。だけどここで無理してもらわないと、もっと危険な状況に陥るかもしれないからな……」
「ワタシは大丈夫だから……ローブはハーティを、気にかけてあげて……!」
「必要なら俺の魔力を、【魔力吸収】で使ってくれ。今はとにかく、急ぐしかない」
「この速度で1度も止まる事が無ければだが、恐らく5時間程でパトリオット王国に着くだろう。問題はパトリオット王国に着いた後の事だが……」
「パトリオット王国なら、観光地と違って冒険者も多いし僧侶院もある。餓鬼程度の大群だったら脅威にならないし、強い魔物は俺達が片付ければ良い」
「という事は、パトリオット王国で一泊する感じで良いのか?」
「ハーティを休ませてあげたいし、戦闘になる可能性が高いからしっかり準備を整えないと。後は東の国の正確な位置を確認して、ルートも考えなきゃ」
それにシーリアスを職業神殿に連れて行って、場合によってはおっちゃんの所にも顔を出さないと。
メシアと無鬼に荷物の準備をしてもらったとして、俺のやる事は山積みだ。
それにパトリオット王国で戦闘が起きないとも限らない、俺だけ全く休めない状況も有り得る。
「のうローブ。メシアの【転移魔法】があるのだから、ぱとりおっと王国とやらまで転移しては駄目なのか?」
「確かに言われてみれば、無鬼殿の言う通りだな。パトリオット王国まで転移出来る事は、メシアがアムルン殿を連れてきた事で証明している」
「ああ、それはな。俺達の移動手段を普通に見せかける為だよ」
「……ど、どういう事じゃ? もうちょっと妾に、分かるように説明しておくれ」
「あの御方って奴は、俺達の位置を正確に把握してるわけじゃない。分かっているんだったら、龍や餓鬼、風神雷神を差し向ける必要は無いからな」
「もしも狙いが、無鬼の保護なら……ワタシ達を、さっさと光線で消してしまえば良い」
「じゃが、ローブは攻撃を受けてしまったではないか?」
「あれは風神と雷神の始末に巻き込まれただけだよ。俺を狙ってきたわけじゃない」
俺以外の奴に追撃が無かったし、多分俺に当たって死にかけた事すら相手は知らない筈だ。
「少人数の転移は、簡単だけど……これだけの人数に、ハーティまで居ると……相当の魔力を消費しちゃう……」
「そうなると正確に位置が把握されて、攻撃をされてもおかしくない。だから無鬼の気配を感じさせつつ、高速移動で追手を出し辛いこの移動方法を取ってるんだ」
「それに東の国は、知り合いも居ないから……転移出来ないしね……」
「成程のう。話を聞くと、ハーティの背に乗った方が安全なんじゃな」
と言ってもあの御方が本当は俺達を捕捉していて、実は踊らされているだけって可能性もあるんだけど……
まあそんな不安を煽るような事は、言わない方が良い。
今はとにかく、パトリオット王国に無事辿り着く事に集中しよう。
「【索敵】……今の所、異常は無いか」
「妾の為にローブやメシア、シーリアスにハーティ……皆が頑張ってくれていると言うのに、妾は何も出来んと言うのが悔しいのう……」
「今の所は出来そうな事が無いのだから、致し方ない。それに自分は無鬼殿が何も出来ていなとは思ってないぞ?」
「む? そ、そうかのう?」
「ああ。無鬼殿は東の国の知識が豊富で、特に魔物の事にかなり詳しい。事前に危険な所を解説してくれるだけで、ローブやメシアの危険度が大幅に変わってくるのだ。なあ、ローブ?」
「そうだな、餓鬼の爪にある毒を教えてくれたから気を付ける事が出来た。風神と雷神は名前から使ってきそうな攻撃が予測出来るから、有利そうな武器を選べてる」
「うん、ワタシ達……充分に、助かってるよ……!」
俺は魔物について、かなり勉強してきたと自負しているつもりだ。
それでも東の国の魔物については、名前を聞いた事あるかどうかという程に知識が無い。
だから無鬼が何も出来ていなかったなんて、考えた事も無かった。
「そうか、妾はちゃんと役に立てておるのか……良かったのじゃ」
「ああ、東の国に辿り着いた時。無鬼殿の知識が、自分達を大きく助けるだろう」
シーリアスの言う通り、無鬼の知識は俺達を大きく助けてくれるのは間違いない。
でも魔物について詳しいって事は、記憶を失う前の無鬼は冒険者だったのだろうか?
いや身のこなしとか見てると、多分違う気がする……無鬼の正体、東の国で分かると良いんだけど……




