雷神を圧倒する魔術師【メシア視点】
地面から盛り上がらせた拳で殴ったのに、雷神は倒れずに踏み止まった。
かなり強く殴ったつもりなんだけど……思っていたよりも強いのかも?
ローブに頼まれたんだから、張り切っちゃうぞー……!
「ククク……貴様の相方は酷いなぁ? この雷神の相手を、貴様のような『妖術師』に任せるとは」
「『妖術師』? 違うよ、ワタシは『魔術師』……!」
「いや、東の国では『妖術師』でな。勿論、『魔術師』でも良いのだが……って、そんな事どうでも良いわ!」
雷神が急に叫んだせいで、ちょっと驚いた……
魔物だけど、雷神は面白いかも。
それにしても『妖術師』……うーん、『魔術師』より可愛くないかな……?
「言いたかった事は、この雷神を後衛の小娘に任せてあの男は馬鹿だと言いたかったのだ」
「は……? ローブが、馬鹿……?」
「そうだ。我が体に、そこらの『妖術師』の術など通じぬ。だと言うのに、前衛も無しに貴様だけ差し向けるなど馬鹿の極みではないか」
ローブの事もワタシの事も……何も知らないくせに……!
ちょっとムカッと来た……痛い魔法を使っちゃおう。
ワタシは世界樹の杖をギュッと握って、雷神の事を睨みつけた。
「ローブを馬鹿にした事、後悔させてあげる……」
「ほう、術を使う気か? ならば試させてやろう。自慢の術を受け止めた後、バラバラに引き裂いて肉を喰らってやるからな」
「じゃあ、こういうのはどうかな……!」
ワタシは杖に大量の魔力を注ぎ込み、【土魔法】を発動させる。
【宣言破棄】のおかげで、相手は何が起こるか分からない。
雷神の背後から大地が盛り上がり、尖った大地の槍が……
「ヌグアッーーーーー―!?」
雷神のお尻を貫いた。
普通は派生技の宣言があるから、攻撃を受ける覚悟が出来る。
だけど【宣言破棄】は、覚悟する暇を与えない。
雷神は膝から崩れ落ちて、お尻を押さえて震えていた。
「受け止め切れてないけど、大丈夫……?」
「ぬっ、ぬぁぁぁぁ……貴様、術の名を言わずに使ったのか……!? 【宣言破棄】を手にした、『妖術師』……! 馬鹿な、こんな偶然が……あってたまるかぁっ!」
「おお、凄い雷……でも、防いじゃうね……!」
雷神は掌から凄まじい雷を放ってきたけど、ワタシは紫色の雷で相殺する。
紫の雷は雷神の雷を突き破り、倒れている雷神の体を包み込んだ。
「ぐぁぁぁぁああっ!? 紫の雷だとぉぉぉぉぉぉっ!?」
「【雷魔法】の極致、ケラウノスバイオレット……珍しい派生技でも、無いよ……?」
紫の雷を全て耐えきって、雷神はフラフラとだけど立ち上がる。
かなり痛い魔法を、選んだつもりなんだけど……耐えられちゃった。
ダンジョンマスター位の強さは、ありそうかな……でも、やっぱり余裕で勝てる。
「この雷神に、雷でダメージを与えるとは……こんな屈辱は初めてだ」
「どっちかと言えば、最初の攻撃の方が屈辱だっだと思う……」
「…………確かに無様は晒したが、それでも生きている。今度はこちらから攻撃を仕掛けさせてもらうぞ!」
そう言って雷神は、一瞬で距離を詰めてきた。
素早く放たれた右拳に対し、ワタシは直ぐに【転移魔法】を発動。
雷神の真後ろに転移して、攻撃を躱した。
「遅いよ……ワタシには、当たらない……」
「【転移魔法】、だとっ!? 【宣言破棄】と【転移魔法】を兼ね備えた『妖術師』! あの御方の影響が、人間を『勇者』の境地に導いているというのか!?」
「ローブが心配だから、もう終わらせるね……?」
ワタシはもう一度転移して、雷神の頭上に飛び上がる。
杖を空に掲げ、先に付いているゴーレムの核に2つの魔法を込める。
気になる事を言っていたから、死なないようにちょっとだけ威力を加減して、っと。
「解放、ばいばーい……!」
「おっ、弟者よぉぉぉぉぉぉっ!」
ワタシがキーワードを言うと、杖に込めた魔法が飛び出す。
青い炎と紫の雷が、雷神の体に襲い掛かった。
雷神は大きく叫びながら、ワタシの魔法を受けて倒れる。
死んじゃったかな……? 聞きたい事があったのに……まあ、息があるなら、ローブが治せるからいっか……
「ローブは……うん、大丈夫そう……今日は弓なんだ、カッコいいな……!」
ワタシがローブの方に振り返ると、風神に向かって岩のような魔力の塊を連射している。
良かった、怪我もしてなさそうだ……無茶もしていない。
ローブは最後に大きな獣の腕を出して、風神の体を突進で貫いた。
「メシア! 終わったみたいだな、怪我も無さそうで……良かった」
「ローブも無事で、良かった……!」
ワタシが見ている事に気付き、ローブが駆け寄ってきてくれる。
ダンジョンマスター位強い魔物でも、1人で倒せるなんて……ローブは本当に、強くなった。
喜ばしい事なんだけど……ちょっと寂しい気持ちもある。
「風神の方はギリギリ生かしてあるんだけど、雷神の方はどうだ? ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
「ローブも? ワタシも、聞きたい事があって……生かしてある」
「もしかしてメシアも、『勇者』の境地がどうとか言われたのか? やっぱりコイツラ、何か知ってる」
「ローブ、回復させて。ワタシが拘束するから」
「ああ、頼む」
ローブが『勇者』……うん、凄くピッタリ。
しっかり情報を引き出そう……ローブの為にも、無鬼の為にも。




