風神を圧倒する盗賊
背中から倒れ込んだ風神の方向を向き、ノーフォームから爪メダルを取り外す。
武器メダル入れの小袋から弓メダルを取り出し、弓形態に変形させたノーフォームを構えた。
風神は名前からして風に関するスキルを使ってくる筈。
普通の矢なら風で逸らされてしまうだろうが、魔力で生み出す矢に風は関係ない。
「ほう人間よ、先程まで鉤爪を身に着けていなかったか? 【爪技】と【弓技】を同時に扱える『宿し』は存在しない筈だがな……人間、貴様の『宿し』を言え」
「冒険者はそうやって何も知らない状態から、魔物のスキルや弱点を探っていくんだ。偶には魔物がその立場に立ってみろよ」
「その通りだな。楽しませてもらおう。まずは小手調べだ、受けてみよ!」
風神が右手を突き出してくると、強烈な風が渦巻きながら吹き荒れる。
相手が小手調べと言うのなら、こちらも弱めの派生技で応えるのが良い筈だ。
俺は弓を引き絞り、魔力で太めの矢を作りながらバックステップで距離を取る。
「【弓技】トランクアロー!」
竜巻の中心をを目掛けて限界までノーフォームの弦を引き絞り、魔力を込めた矢から指を離した。
巨人の腕のように太くなった矢が、竜巻を掻き消しながら真っ直ぐと風神へ向かっていく。
ちょっと太くて強い魔力の矢を放つ、【弓技】の初歩的な派生技だ。
「成程、その動き……【弓技】を扱うが、『弓兵』では無いようだな」
トランクアローを片腕で受け止め、風神は静かに呟く。
その視線の先は大きく飛び上がり、ノーフォームに魔力の矢を番える俺が居た。
弓を扱うからって、遠くから狙い続けるわけじゃない!
「【弓技】ウッドペックビートッ!」
「ぐぬううううううっ!」
派生技を宣言し、弦を引いては離して矢の集中砲火を叩き込む。
ウッドペックビートは腕と魔力が保つ限り、とにかく矢を撃ち込める強力な派生技。
俺の魔力量なら、相手が倒れるまで続けられる。
「ハァァァァアアッ!」
「調子に、乗るなぁぁぁぁっ!」
雄叫びを上げながら矢を撃ち込んでいると、風神が叫びながら腕を振り払う。
先程とは比べ物にならない風が吹き荒れ、俺の体は大きく吹き飛ばされた。
かなり撃ち込んだつもりだけど、まだ倒れない……ギガンテスタイプ特有の頑丈さだろう。
空中で体勢を立て直した俺の前には、足を高く振り上げた風神の姿があった。
「っ!」
「この一撃、どう対処するっ!?」
振り下ろされる風神の踵に、俺は右腕を真っ直ぐ伸ばす。
空中での威力を盗むは危険なんだけどな……使うしかない!
さて、風神は俺が『盗賊』だと気付くかな……?
「答えはこうだ! 【同時発動】! 【盗む】能力値を盗む×【盗む】威力を盗む!」
▼風神の ステータス がローブに加算された
▼特別な魔物からは 10%しか 盗めない
「何だと!? ぐあぁっ!」
「うぐっ……やっぱ、空中じゃ危ないな……!」
風神の踵落としを弾き飛ばしつつ、ステータスを奪い取る。
空中に居たせいで俺は地面に叩きつけられたが、風神も頭から豪快に落ちた。
それにしても盗める能力値に制限があるって事は、コイツはダンジョンマスター級の強さがあるって事か……
「今の妙な弾き返し、本来有り得ない組み合わせの技……人間、貴様はまさか『盗人』か!? 【盗む】を極めた、『勇者』の境地に辿り着く者!」
「『勇者』の境地? どういう事だよ! 勇者は『勇者』って職業じゃないのか!?」
数千年前に魔王を討伐した伝説のパーティー、そのパーティーのリーダーで何もかもが謎に包まれた『勇者』。
なんでその『勇者』が、『盗賊』に繋がるんだ……風神は何を知っている?
風神は直ぐに起き上がり、掌に小さな竜巻を作り上げる。
「知らぬのならば好都合! 遊びは終わりだ! あの御方の脅威となる前に、ここで切り裂いてくれるっ!」
「悪いが終わりには出来ない。『勇者』の境地や無鬼の事、お前から色々と聞かなきゃならないみたいだからな」
俺はノーフォームに魔力の矢を番え、風神を狙って思いっきり引き絞った。
風神の手にある竜巻が小さく圧縮され、拳の中に収まる。
あの拳が開かれれば、圧縮された竜巻が解放されて襲い掛かってくる筈だ。
「消えよっ、人間んんんんんんっ!」
「【弓技】メテオライト!」
風神が竜巻を解放すると同時に、俺はノーフォームで魔力の矢を撃ち出す。
竜巻は風神の身の丈を超える程大きくなり、全てを引き寄せて切り裂く災害となった。
対する俺のメテオライトは球体のように膨らみ、隕石のような形となって竜巻へと向かっていく。
「舐めるなっ! このような魔力の塊1発で仕留められると思う……なぁっ!?」
竜巻を掻き消したメテオライトを、風神は拳で殴り飛ばした。
ああ、1発でやれると思っちゃいない。
だから俺は既に、次のメテオライトを番えていた。
「【同時発動】、【弓技】メテオライト×【弓技】ウッドペックビート……分かってる。だから、仕留められるまで打ち込んでやるよ!」
「馬鹿な、魔力が持つわけ――」
引き絞り、矢を作り、指を離す。
動作を高速で繰り返し、大量のメテオライトを風神に撃ち込んだ。
「うおおおおおおっ!」
「ぬぐぁあああああっ!?」
風神は必死に防御を固めていたが、隕石の矢による猛撃に少しずつ崩されていく。
【同時発動】について調べたおかげで、今の俺なら【凶暴化】に頼らない決定的な一撃があるんだ。
俺はノーフォームを背中に背負い、右腕を掲げて獣の腕を出現させる。
「これで終わりだっ! 【同時発動】、【爪技】獣王爪斬×【紫電勢爪】!」
「あ、兄者ぁぁぁぁああああっ!」
完全に防御が崩れた風神の腹を、獣の腕を伴った突進で貫いた。
さて、風神には聞きたい事があるけど……メシアの方は大丈夫だろうか?




