話し合う女騎士と魔術師【メシア視点】
シーリアス王女がこの街に来た事があるようなので、ワタシは案内を頼んだ。
本当はローブにも来てほしかったけど……無鬼を守るのは、ローブが適している。
それに無鬼は疲れていただろうし、休ませてあげるのは賛成だったから。
「メシア殿、お腹は空いていないか? まずは軽食でも取ろうと思うのだが」
「うん、何か食べたいかも……シーリアス王女、オススメのお店とかある……?」
「ああ、任せてほしい。それに少し、話したい事もあるからな」
「そうだね……ワタシも、同じ事思ってた……」
シーリアス王女のオススメの喫茶店に来て、ワタシ達は昼食を取る。
新鮮なお魚の料理は美味しくて、直ぐに食べ終えてしまった。
最後にお茶が届いて、シーリアス王女は少しだけ真面目そうな表情をする。
「無鬼の事、だよね……?」
「ああ、その通りだ。ローブ殿とメシア殿が心を許しているので、自分も信じてあげたいのだが……だからこそ、警戒せねばならない」
「うん、大事だと思う……シーリアス王女は、気になる所はあった?」
「ああ、まず無鬼殿の喋り方だ。あれは東の国の王族が使う口調の筈。だが、王族に鬼人が居たという話は聞いていない」
これは……シーリアス王女しか分からない、気になる所だ。
ワタシやローブだけだったら、間違いなくちょっと変わった喋り方で終わっちゃう。
もし口調で引っかかっていても、遠い国の王族の家系なんて……把握してない。
「他にも、ある……?」
「これは言いがかりに近いが……自分は無鬼殿が記憶を失っているかすら、怪しいと思っている。鬼人は魔物と会話が出来る亜人だ。つまり、ローブ殿が倒したという龍は……」
「無鬼が信頼を得る為に、わざと用意した可能性がある……?」
「勿論、自分が考えすぎの可能性も充分にあるがな。いやむしろ、そうであってほしいのだが……」
そう言って溜息を吐き、お茶を飲むシーリアス王女。
ローブはお人好しだから、初対面で良い印象を持っちゃうと……疑う事を止めちゃう。
そしてそれは、ワタシも同じ……だからシーリアス王女の疑いは、とってもありがたい。
「そう言えば……無鬼について、ワタシも気になる事があるかも……」
「メシア殿もか。それは一体、どんな事なのだ?」
「さっきワタシが、【転移魔法】でアムルンさんを連れてきた時……無鬼の様子が、おかしかった気がする」
「確かにローブ殿が声をかけていたな。ローブ殿は疲れが出てきたんじゃないかと、心配していたが……」
「ワタシは、そうには見えなかった……【転移魔法】を見て、驚くというか……何かを思い出しているような……」
【転移魔法】は、とても貴重なスキル……数千年前に、実在したかもと言われていた。
そのスキルを見て、何かを思い出す……それは、【転移魔法】を見た事があるという事。
でもワタシと無鬼は、間違いなく初対面……という事は、ワタシ以外に【転移魔法】の使い手が居る?
「疑うにしても、信じるにしても……まだまだ無鬼殿の情報が足りないな。暫くは自分が用心しておこう。メシア殿、こんな話をして申し訳ない」
「ううん……話してくれて、ありがとう……! また何かあったら、ワタシに相談してほしい……ローブはこういうの、凄く苦手だから……」
ワタシには分かる……ローブはきっと、誰かに裏切られるのは嫌。
例え無鬼がどれ程良い人でも……ローブの心に傷付けるなら、その前にワタシが……
ローブを守る為だったら、ワタシは何だって出来る……!
「それでは、そろそろ店を出よう。服やアクセサリーを見に行こうと思うのだが」
「うん、行こう……! シーリアス王女、案内よろしく……!」
ワタシがそう言うと、シーリアス王女は少しだけ不満そうな表情をしていた。
どうしたんだろう……案内よろしくなんて、気軽過ぎたかな……?
ずっと何も言われないから、ローブみたいに敬語を使わないでいたけど……使った方が良いのかな。
「先程の話とは違う……とても小さく下らない相談なのだが、少し良いだろうか?」
「うん、何……?」
「ローブ殿もメシア殿も……何時になったら、自分を呼ぶ時に名前から王女を外してくれるのだろうか?」
「…………へ?」
それって、シーリアス王女を呼び捨てにしろって事?
というか、呼び捨てにして良かったの……?
いちいち付けるの面倒だったし、だったらもっと早く言って欲しかった。
「勿論、自分の最初の印象が悪かったのは分かっている。だがそろそろ敬語は止めてほしいのだが……メシア殿、どうすれば良いと思う?」
「それローブに、そのまま言えば……止めてくれると思うよ?」
「本当か……?」
「大丈夫だよ、ローブはシーリアス王女……ううん、シーリアスの事……大好きだから……!」
「メシア殿……ありがとう」
「シーリアスも、殿を外しちゃおうよ……呼び捨てにしてほしいのなら、自分も呼び捨てにしなきゃ……!」
「そうか、確かにそうだな……! で、では、メシア……行こう!」
「おっけー……!」
うん、シーリアスと仲良くなれた気がする……!
こうして話を聞くと、シーリアスも普通の女の子って感じだ。
もっともっと、仲良くなれると良いなぁ……!




