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スイートルームで休む鬼女と盗賊

 アミチェさんの案内で、最上階のスイートルームに連れて行ってもらう。

 今まで宿っていうのは、体を横にして目を閉じる為だけの部屋しか借りられなかったからな。

 スイートルームがどんなのか、ちょっと期待している。


「ここがスイートルームだぜ。寝室が2つ、リビング、キッチン、風呂とトイレも完備してある」


「凄いな、家みたいだ……!」


「なんじゃ、ローブ。お主のような実力者が、すいーとるーむとやらは初めてなのか?」


「冒険者のランク、個人のは未だにFランクだからな……そろそろランクを上げに行かないと」


「なあ、続きの説明していいか?」


「ああ、自分が聞こう」


 そうなんだよなぁ……そろそろ冒険者としてのランクを上げなければならない。

 じゃなければシーリアス王女の許嫁なのにショボいって、色々な人に迷惑をかけてしまう。

 面倒を思い出して落ち込む俺のせいで、アミチェさんの説明が中断されてしまう。

 メシアと無鬼(ナキ)に背中を擦られている俺を尻目に、シーリアス王女は続きを聞いていた。


「おっと、王女様ですね。それじゃあ、これがこの部屋の鍵です。魔力を通しながら差し込まないと、開錠(かいじょう)施錠(せじょう)が出来ないから気を付けてくださいね」


「多くのスイートルームと同じ魔力鍵だな、了解した」


「流石に知ってますよね。じゃあ、何かあったら魔力チャイムを鳴らしてください。よろしければ夕飯も用意しますが、どうします?」


「そうだな……折角なので、いただこう」


「了解です、何時でも用意するんで必要な時にチャイムで呼んでください。それじゃあオレはこれで」


「ああ、バカンスの間はよろしく頼むぞ」


 そう言ってアミチェさんは、一礼をしてからスイートルームから出ていく。

 取り敢えず無鬼(ナキ)を東の国に送るまでは、冒険者ランクの事は忘れようか。

 うん、それまでは冒険者は休業って事にしよう。


「ローブ、これからどうするの……?」


「自分としては久しぶりに、街の観光でも行きたいのだが……」


「ごめん、観光なら2人で行ってきてほしいんだ。俺はもしもの時の為に、無鬼(ナキ)の傍に居るよ」


「妾の事は気にせんでも良い、観光に行くのであれば全員で――」


「分かった……いつもの、置いておくね……!」


 そう言ってメシアが掌に、小さな炎で出来た蝶を作り出した。

 炎の蝶はメシアの手を離れてヒラヒラと舞い、ゆっくりと俺の右肩の上に乗る。

 これが俺とメシアを繋ぐ、いつものやつだ。


「ローブ殿、その蝶は一体……?」


「メシアにもしもの事あれば、炎の蝶が弾けて俺にメシア達の危機を教えてくれる。逆に俺に何かあれば、炎の蝶を握りつぶしてメシアに知らせるっていう物です」


「これのおかげで……離れても安心……! じゃあ、シーリアス王女……行こう……!」


「そうだな。それではローブ殿、行ってくる」


「ああ、行ってらっしゃい。何かあったら、蝶で知らせてくれよ。【索敵】で見つけ出して、必ず駆けつけるからさ」


 メシアとシーリアス王女を見送り、俺は無鬼(ナキ)の方を見る。

 必死に隠そうとしているが顔色が悪い、かなり疲れが溜まっているようだ。

 俺は荷物からノーフォームと杖メダルを取り出し、杖形態にして手に取る。


「全く、妾は大丈夫じゃというのに……!」


「まあそう言うなって、疲れは自分じゃ分からないものだからさ。体の疲れは【回復魔法】で取るから、昼寝をして精神の疲れを取るのが良いよ」


「ならば、折角じゃ。妾の頼みを聞いてくれんんかのう?」


「まあその前に、【回復魔法】ゴッデスヒール」


 無鬼(ナキ)の方に杖を向けて、派生技を宣言した。

 ゴッデスヒールが発動し、無鬼(ナキ)の体を緑色の光が包み込む。

 【回復魔法】を自分で使えるの、やっぱり便利だな。


「『盗人(ぬすっと)』だと言うのに、『祈祷師(きとうし)』の技も使えるのか……やはりお主、何か懐かしい気がするのう……」


「はいはい、分かったから。取り敢えずお昼寝しような」


「ちょっと待てい、妾の頼みを聞いてもらうぞ!」


「……俺に出来る事ならな」


「なぁに、簡単よ。妾が寝る時に、お主の膝を枕に借りたいのじゃ」


「膝枕か、まあそれくらいなら良いけどさ」


「そうか! 妾は何故か分からぬがその行動に憧れがあってのう、感謝するぞ!」


 俺は無鬼(ナキ)に手を引かれ、寝室へと向かう。

 ベッドにゆっくり腰掛けると、無鬼(ナキ)が俺の膝に頭を乗せた。

 メシアにもよく膝枕をしてやるけど、やっぱ憧れるもんなのかね?


「それじゃあ、ちゃんと寝ろよ」


「お主の膝を堪能(たんのう)したいが……もう、眠くなってしもうたわ……ローブ、すまん」


 そう言って無鬼(ナキ)は、寝息を立て始める。

 やっぱり相当疲れが溜まっていたんだな、こんなに早く眠るなんて。

 もしも観光に連れ回してたら、気絶していたかもしれない。


「何でこんな小さな子が、魔物に追いかけられているんだか……」


 眠る無鬼(ナキ)の頭を撫でながら、俺は静かに呟く。

 無鬼(ナキ)は本当に何者なのだろうか……何故、俺を見て懐かしいと言ってくるのだろうか?

 そして、誰がこの子を狙っているのか……本当に謎が多い。


「東の国に着いたら、無鬼(ナキ)を知っている人が居ると良いな……必ず、送り届けてみせるから」


 だから今は、ゆっくりおやすみ……無鬼(ナキ)

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