表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/100

勝利を祝う女騎士と魔術師と盗賊

 ソルマのパーティーと勝負した日の夜、アムルンさんの酒場で祝勝会が開かれている。

 オネスト国王やマーシー王妃、カレッジ王子達も来てくれるようで、アムルンさんは気を利かせて貸し切りにしてくれた。

 【凶暴化】の反動はビソーから盗んだ【回復魔法】で治し、俺も祝勝会にちゃんと参加している。


「それじゃローブ、乾杯しよ……?」


「あ、ああ……分かった」


 俺はメシアに促され、酒の入ったグラスを目線の高さまで掲げる。

 祝勝会の参加者の皆も同じようにグラスやジョッキを掲げて、俺の言葉を待っていた。

 折角集まってくれたんだから、何か挨拶しないと。

 弱ったな……俺はこういう挨拶苦手なんだけど、まあ頑張るしかないか。


「えっとそれじゃあ、本日は――」


「はい、かんぱーい……!」


「「「カンパーイッ!」」」


「ちょっと、メシア!?」


 頑張って挨拶をしようとしたら、メシアがあっさりと乾杯の合図を出してしまう。

 そのまま祝勝会が始まり、俺は拍子抜けしつつも心の中で安堵していた。

 こういう事が苦手な俺の為に、メシアがわざとやってくれたんだろう。


「ローブ、お疲れ……体はもう大丈夫?」


「ああ、メシア。もう大丈夫だ、心配してくれてありがとう。それと……【凶暴化】使ってごめん」


「うん……謝ってくれたから、許してあげる……ワタシは、だけどね……?」


「分かってる、シーリアス王女にもちゃんと謝るさ」


 俺はそう言って、酒場の中を見渡した。

 だが参加者の中に、シーリアス王女の姿は見えない。

 オネスト国王にマーシー王妃、カレッジ王子や他のご兄弟、アムルンさんとウェイトレス。

 もう一度探してみても、やはりシーリアス王女の姿は無かった。


「ねえ、ローブ……少し、外に出てみて……?」


「何で……いや、分かった、行ってくるよ」


「うん……!」


 俺はメシアから離れ、グラスを持ったままゆっくりと酒場から出る。

 空は既に真っ暗で、満点の星が輝いていた。

 酒場の周囲を見渡すと、鎧ではなく赤いカクテルドレスに身を包んだシーリアス王女がゆっくりとこちらに向かってきているのが見える。


「ローブ殿、迎えに来てくれたのか……感謝する」


「いえ、その……ドレス、凄い似合っていますね。上手く言葉に出来なくて申し訳ないんですけど、とっても綺麗です」


「フフッ、そう言ってもらわねば困る。君に褒めてもらう為だけに、久しぶりにドレスを着て化粧をしたんだから……」


「そ、そうなんですか。嬉しいです……!」


 シーリアス王女が俺にの為にわざわざ……そう意識すると、凄い恥ずかしくなってきた。

 頬を掻きながら視線を逸らしてしまい……俺とシーリアス王女は、少しだけ黙ってしまう。

 無言は気まずい……とにかく、シーリアス王女に迷惑をかけてしまった事について謝らないと。


「ローブ殿、勝負に乱入してすまなかった……」


「えっ、ああ……謝らなきゃいけないのは、俺の方です。止めに入ってくださったシーリアス王女を、俺は……」


「あれは君の意志じゃない、【凶暴化】の引き起こす破壊衝動が原因なのだ。それに君はちゃんと抑え込んでいる」


「でも、俺1人じゃ無理でした。シーリアス王女が俺を止めてくれて、メシアが殴ってくれなきゃ俺は……!」


 きっと、シーリアス王女を……殺していた。

 【凶暴化】による破壊衝動を言い訳にしてはいけない。

 だって【凶暴化】を使わなくたって、ソルマ達を倒す事は出来たんだから。

 自分のやった事に俯いて悔やむ俺を、シーリアス王女は優しく抱き寄せる。


「良いのだ、ローブ殿。自分は気にしていない……!」


「シーリアス、王女……」


「君に救われたこの命、君に救われたこの体……自分は1つ残らず、君に捧げたいんだ。だから、気にしなくて良い」


 頬を赤く染めて、優しい微笑みを向けてくるシーリアス王女。

 その妖艶な表情に、俺は目を奪われていた。

 シーリアス王女は目を閉じて、そのまま顔をゆっくりと近付けてきて……


「はい、今日はここまで……!」


 俺とシーリアス王女の唇が触れそうになった瞬間、背後からメシアの声が聞こえた。

 シーリアス王女は大慌てで俺を突き放し、焦った表情で俺の背後を見る。

 声は出ないけど、驚いた……心臓に悪い。


「あ、あのメシア殿! これは決して抜け駆けしようとしたとかではなく! そのっ、ローブ殿が落ち込んでいたので、励まそうとしてだな!?」


「大丈夫、怒ってないよ……ただ……」


「ただ?」


 聞き返した俺に、メシアは背後を見るように手で促した。

 そこには隠れているようで隠れきれてない、祝勝会の参加者が俺達の事を覗いている。

 確かにこれは……途中で止められても仕方ないな。


「マーシー、見たか? あのシーリアスが恋に対して、積極的になっている!」


「ええ、見ましたとも。お外でキスしようとするなんて、シーリアスったら大胆なのですから」


「最初にパトリオット家の血を繋ぐのは、案外シーリアスかもしません。ねえ、父上?」


「う、うわぁぁぁぁああああっ!」


 家族からの言葉で恥ずかしさが限界に達したらしく、シーリアス王女は頭を掻きむしる。

 そんなシーリアス王女を見て、メシアは俺の隣で優しく微笑んでいた。


「ローブ……」


「何だよ?」


「お疲れ様……ここからゆっくり、前に進もうね……?」


「……ああ、そうするよ」


 今までの俺は、強くなる事に急ぎ過ぎていた気がする。

 でも、もう焦る事は無いんだ。

 今日からはゆっくり、メシアと2人で冒険者として頑張っていこう。

 俺はそう、心に誓ったのだった。

これにて、第一章完結って感じです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ