凶暴な盗賊
盾は6つに引き裂かれ、分厚い鎧を抉られたダンモッド。
胸元から血を流し、ダンモッドは呆然とした表情で膝から崩れ落ちていく。
あの頑丈な『重歩兵』を、たった一撃で倒せるなんてな……!
「【爪技】の最初の技である裂爪で、私達のパーティーの盾である……ダンモッドが……!」
「あ、あり……えねぇ……!」
「まだ意識があるのか、寝てろ」
「させませんよ! 【神聖魔法】ホーリーバレット!」
足元に倒れたダンモッドを黙らせようと、拳を握り纏っていた赤い魔力を集中させる。
ビソーが妨害しようと、杖の先から魔力の光弾を大量に撃ち出してきた。
馬鹿め、俺の足元に誰が居るのか忘れているらしい。
「ほらダンモッド、昔のよしみで俺を守ってくれ」
「て、めっ……うぐぁぁぁぁああっ!」
俺はダンモッドの首を片手で掴み上げ、ビソーのホーリーバレットを体で受け止めさせた。
そのまま肉の盾を構えて、弾幕の中を突っ切る。
流石はSランクパーティーの盾、激しい弾幕を受けてもまだ生きているようだ。
ビソーの目の前に辿り着いた俺は、ダンモッドを叩きつけるように横に投げ捨てる。
「そう言えば【神聖魔法】と【回復魔法】は『僧侶』しか使えないから、メシアは覚えてないんだよな……?」
俺を睨むビソーを見下ろし、俺は大事な事を思い出す。
そう言えばスキルを盗むが人間に効くか、試した事無いな。
ビソーのスキルなら便利だし、丁度良い。
俺はビソーの首を掴み、片手で高く持ち上げる。
「うぐっ!? な、何を……?」
「何で俺が『武闘家』の【爪技】を使えたのか。その理由を、お前に試してやろうかと思ってな」
「そ、それってまさか……!? や、止めてください!」
「残念ながら、もう遅い。【同時発動】、【凶暴化】×【盗む】スキルを盗む」
▼ビソーから 【神聖魔法】 【回復魔法】 【支援魔法】 を盗んだ
頭の中に響いてくる、【盗む】が成功した声。
どうやらスキルを盗むは、人間が相手でも成功するらしい。
用済みになったので手を離すと、ビソーはそのまま尻餅の体勢で動こうとしていなかった。
「ああ、分かってしまった……僕はもう、冒険者として活動できない……」
「ハッ、ざまあみろ」
心が折れたビソーに背を向け、俺はソルマとエイロゥを睨む。
ソルマは最後に叩きのめしたい……となれば、次のターゲットはエイロゥだ。
「どうやら次の狙いは……」
「ああ、拙者の様だな……下がれ、ソルマ。動きを見切る時間を稼ごう」
「何を言っている? もうダンモッドもビソーもやられているのに、1人で相手をするのは無茶だ」
「少しでも動きに慣れれば、ソルマならば勝てる筈だ……見る時間は、拙者が作ろう……!」
大きな弓を構えながら、エイロゥはゆっくりと前に出てくる。
俺はニヤリと口角を上げ、一気に駆け出した。
動きに慣れれば、ソルマなら勝てる?
「じゃあ、見せてやる。【凶暴化】での全力の動きをっ!」
一瞬でエイロゥとの距離を詰め、その顔を全力で殴りつける。
そのまま地面に叩きつけるように軌道を曲げれば、エイロゥの体は大きくバウンドした。
「ガハッ……!?」
「まだ壊れるなよっ!」
浮き上がったエイロゥの足首を掴み、勢いよく地面に振り下ろす。
【凶暴化】で大幅に引き上げた能力値は、エイロゥに防御する暇も与えない。
何度も地面に叩きつけると、エイロゥは白目を剥いて動かなくなってしまった。
軽く痙攣はしているから、まだ生きている。
「【同時発動】、【凶暴化】×【盗む】スキルを盗む」
▼エイロゥから 【弓技】 【罠魔法】 【獣特攻】 を盗んだ
エイロゥからもスキルを盗み、ダンモッドとビソーの方に放り投げた。
これで残るはパーティーのリーダー、『剣士』のソルマのみ。
俺は再び球体のノーフォームを懐から取り出し、剣メダルを嵌めこむ。
片手剣形態になったノーフォームの切っ先を、ソルマの方に向ける。
「『剣士』の私に、剣で挑むとは愚かな……とは言えないな。だが諦める事は出来ない、最後まで足掻かせてもらおう!」
「黙れ、そして無様に負けていろ」
俺はノーフォームを両手で持ち、切っ先をソルマの足元に向けた反撃狙いの構え。
対するソルマは左手のバックラーを正面に構え、半身の構えを取った。
相手に隙を作って、先に【剣技】を叩き込んだ方が勝ち……技術勝負になるだろう。
「卑怯と怨んでくれるなっ!」
先に動いたのはソルマ、地面を蹴って俺の方に砂を巻き上げてきた。
砂が目に入り込んでしまい、目を閉じてしまう。
何でもありの冒険者らしい目潰し、卑怯とは言わないさ。
俺は目を閉じながら、ソルマが狙うであろう位置にノーフォームをズラす。
「何っ!?」
「残念だったな。お前が目潰しの後、狙ってきそうな場所は予測出来ているんだよ。終わりだ……【同時発動】」
ソルマの剣を一気に弾き、ゆっくりと薄目を開けた。
ノーフォームを構え直し、俺はトドメの【剣技】の構えを取る。
「【凶暴化】×【剣技】一閃!」
ソルマはバックラーで受け止めようとしたが、【凶暴化】で強化された一閃の前には無いに等しい。
バックラーを真っ二つに叩き割り、鎧越しに深々と切り裂く。
更に暴風が産み出され、ソルマを壁に激突させた。
これで終わり……?
いいや、最後の仕上げが残ってる……!
「ソルマ……お前の首を取って、決着だ……!」




