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小手調べに軽く暴れる盗賊

 俺の威力を盗む(パワースティール)で吹き飛ばされたダンモッドが、膝に手をついてゆっくりと立ち上がった。

 ダンモッドはあのパーティーの盾役なのだから、この程度で倒れてもらっちゃ困る。

 アイツには散々痛めつけられたんだ、まだまだ拳で返してやらないと……!


「まさか【盗む】にそんな派生技があるとは思いませんでした。だったら、これはどうです!? 【神聖魔法】ホーリーレーザーッ!」


 ビソーの杖の先が俺に向けられ、白銀の太い光線が撃ち出される。

 俺は懐からノーフォームを取り出し、ポケットから杖メダルを取り出して装着。

 杖形態に変形させたノーフォームを左手に持ち、光線に向けて右手を突き出す。


「【盗む】魔力を盗む(マジックスティール)……攻撃も魔法も関係ねえよ」


 派生技でホーリーレーザーを全て呑み込み、今度は俺がノーフォームの先をビソーに向けた。

 魔法を撃たれたのなら、魔法で返すのが礼儀だよな?

 こっそり練習していた【炎魔法】プチファイアの上の派生技。


「いつの間に杖を? マズイ、ダンモッドッ!」


「【炎魔法】ファイアッ!」


 ソルマが俺の狙いに気付き、ダンモッドに指示を飛ばす。

 ノーフォームの先からドラゴンが吐き出すような炎が飛び出し、ソルマ達を焼き払おうと襲い掛かった。

 ダンモッドが素早く前に出て、大きな盾を地面に叩きつけるように構える。


「【盾技】魔力集中っ! ぬぅぅうああああっ!」


 ダンモッドの盾が虹色に輝くと、拡がっていた炎が盾に吸い込まれていくように軌道を変えた。

 しかし俺のファイアの炎の勢いを抑えきれず、ダンモッドは少しずつ後ろに押されていく。


「ファイアなんてかなり弱い魔法の筈ですよ!? どれだけ大量の魔力を注ぎ込めば、こんなとんでもない威力になるんです!?」


「ビソー、貴様の魔力を……丸々使っているのではないか……?」


「そう言えばこれも盗むでしたね……という事は、魔力の攻撃は全部無効化出来るって事ですか!? 僕だけじゃなくて、エイロゥの【弓技(きゅうぎ)】も魔力の矢で撃つ派生技は全部駄目って事ですよね!」


「いいや、拙者の推測が正しければ……【弓技】シューティングスター!」


 エイロゥが上空に弓を向けて、矢を使わずに弦を引っ張る。

 虹色の魔力で形成され矢が出現し、エイロゥはソレを天高く打ち上げた。

 矢は青空の中でキラリと輝き、次の瞬間には千を超える矢の流星群として俺に降り注いでくる。

 流石はエイロゥ、たった2回の【盗む】派生技でもう盗めない攻撃を見切ってきたか。

 俺はノーフォームから炎を撃つのを止め、降り注ぐ矢を躱していく。


「あれ? 魔力の矢なのに、わざわざ避けてる?」


「うむ。ダンモッドのハンマーも……ビソーの魔法も……ローブはわざわざ手で受け止めていた……つまり奴は……手で触れなければ、弾いたり吸収したり出来ないのだ……!」


「そうか! 派生技は発動する度に、名称を宣言しなければならない。ローブがシューティングスターを吸い込む為には、矢を手で受け止めながらその度に派生技を宣言する必要があるのだね? そんなの息が持たないし、1本を受ける間に他の矢が体を貫いてしまう」


「じゃあ俺とソルマで手が間に合わねえ程、ボコボコにしてやれば良いんだよなぁっ!」


「そういう事だ、行くぞダンモッド!」


 全ての矢を躱し終えた俺に、ソルマとダンモッドが向かってきた。

 直ぐにノーフォームから杖メダルを取り外し、爪メダルを嵌めて両手に鉤爪を装着する。

 確かに【盗む】派生技の弱点を直ぐに見破ったのは見事と言わざるを得ないが……それで俺を全て見破ったとは言わせない。


「ハッ、そんな貧相な鉤爪で――」


「【爪技】紫電勢爪!」


「ぐあぁっ!」


 ハンマーを大きく振りかぶるダンモッドを、紫色の魔力を纏った突進で貫く。

 直ぐに振り返り更にソルマに向けて、ダンモッドを蹴り飛ばした。


「ダンモッド!? うぐぅっ!?」


 剣を構えていたソルマは、咄嗟の事に避けられずにダンモッドと激突してしまう。

 追撃を仕掛けようとする俺の瞳を目掛けて、エイロゥが木の矢を放った。

 避ける事は出来る、だが俺は敢えて放たれた矢を避けずに(まぶた)で受け止める。


「当たった……だが、無傷だと……!?」


「今更そんな普通の矢が効くかよ、【爪技】地走り爪撃!」


「ビソー、拙者の後ろに……くっ!」


 矢は瞼を貫けずに、地面にポロりと落ちていった。

 お返しに鉤爪を地面スレスレから一気に振り上げ、5つの爪の軌跡をエイロゥとビソーに放つ。

 エイロゥは直ぐにビソーを庇い、体で地走り爪撃を受けて膝から崩れ落ちた。


「ふざけんなぁっ!」


 背後から怒鳴り声が聞こえた瞬間、俺は地面を蹴ってふわりと後ろに宙返りをする。

 俺が居た位置にハンマーを振り下ろすダンモッド、その頭を掴んで思いっ切り地面に叩きつけた。


「ぶべっ!?」


「どうしたダンモッド? 俺の手が間に合わない程、ボコボコにしてくれるんじゃなかったのか?」


「ク、クソが……っ!」


 ダンモッドの頭を片手で持ち上げ、ソルマの方に投げつける。

 これで俺の小手調べは終わった。

 今の能力値(ステータス)とスキルで、俺はソルマ達に通用する!


「ここからが本気だ! かかってこい、勝利は俺が盗んでやるよっ!」


 鉤爪を構え直し、俺は堂々とそう宣言した。

 さあ、本格的に借りを返してやる!

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