落ち始める剣士【元パーティー視点】
王国に帰ってきた私を出迎えたのは、焦った表情のヴィーラー家の従者だった。
嫌な予感がした私はパーティメンバーを、アムルンさんの酒場へ先に行かせておく。
ヴィーラー家に何かあったと考えるのが妥当だろうか?
いや、もしそうであれば手紙が届いているだろう……となると、私に関わる事だろう。
「久しぶりだね、何かあったのかい?」
「何かあったなんて物じゃありません! 急な発表に、ヴィーラー家は大騒ぎしております!」
「何があったのだ? それを聞かねば、私は驚く事も出来やしないぞ」
「ソルマ殿とシーリアス王女の婚約が破棄されましたっ!」
「なっ……馬鹿な……っ!」
私とシーリアス王女の婚約が破棄だとっ!?
父上や母上が勝手に破棄するとは思えない……つまり王族のパトリオット家から、破棄したという事だろう。
「王国の近くに潜んでいたデーモンの大群を、2人の冒険者が倒したようです。その功績と実力を称え、シーリアス王女との婚約関係はその冒険者に……」
「その冒険者が、私よりも優れているとでも!? その冒険者の名前はなんだっ! 私が直接、話をつけてこよう!」
「そ、それがその……! その冒険者は……」
私が激しく問い詰めると、従者は目を逸らして言い淀む。
この反応はどういう事だ……まさか、私が知っている人物なのか?
嫌な予感が強くなってくる……デーモンを倒せる程の実力者は誰だ。
「教えてくれ、その冒険者の名前はっ!?」
「ロ、ローブさんです……少しだけ、ソルマ様のパーティーに在籍していたあの……!」
「あの『盗賊』如きが、王族の許嫁を私から盗んだというのかっ!? あり得ない、何かの間違いだろうっ!」
「そのように考えて我々も城まで聞きに行きましたが、間違いなくあの『盗賊』のローブさんでした!」
あのローブが、デーモンの大群を倒した……?
私のパーティーに居た時は実力を隠していたのか……いや、隠すメリットが無い。
そんな実力があれば、私のパーティーから追放する事は無かった。
待てよ……冒険者は2人と言っていたな?
「ククク……そういう事か。すまない、良く教えてくれた。後は私と本人で話をつけてこよう。両親にもそう伝えておいてくれ」
「か、かしこまりました……」
笑い出した私に戸惑っている従者を、屋敷へと戻らせる。
分かったぞローブ、仲間の冒険者を騙して手柄を譲らせたのだろう。
私は少し早歩きで、アムルンの酒場へと向かった。
ローブはアムルンと仲が良い、酒場に居なくても情報はほぼ確実に手に入るだろう。
「もしも惨めに冒険者を続けているのであれば、奴隷にでもして連れて行ってやろうと思っていたが……君がそう言った事をしてくるのであれば、私も相応の手段を取らせてもらう」
目的地であるアムルンの酒場が、段々と見えてくる。
先に行かせたビソーやエイロゥ、ダンモッドは何をしているだろうか?
恐らくビソーやエイロゥは、無言の魔術師メシアを探してくれているだろう。
ダンモッドは……案外ローブを見つけて、絡んでいるかもしれないな。
私としても、絡んでくれている方が都合が良い。
「いらっしゃいませー! あ、ソルマさんお久しぶりです……!」
アムルンの酒場に入ると、笑顔のウェイトレスが私を出迎えてくれた。
この酒場に来るのも、かなり久しぶりの気がする。
「やぁ、久しぶりだね。ビソー達が先に来ている筈なんだが、何処のテーブルかな?」
「それが来てはいるんですけど、ちょっとメシアさんのテーブルに行っていて……あっちに居るんですよ」
「丁度良い、彼女に用があったんだ。あのテーブルだね、ありがとう」
「あっ、ちょっと……!?」
ウェイトレスが教えてくれた方向には、私のパーティーメンバーと魔術師らしい恰好の小柄な女性が相席している。
あの娘が無言の魔術師と呼ばれるソロのSランク冒険者、思っていたよりも普通の『魔術師』だな。
テーブルに近付く私にビソーが気付き、手を振ってくる。
「ソルマ、来てくれましたか。紹介します、彼女が――」
「ああ、聞いているよ。初めまして、Ms.メシア。私はソルマ、貴女の周りに居る『僧侶』ビソー、『弓兵』エイロゥ、『重装兵』ダンモッドとSランクのパーティーを組んでいるものだ」
「あっ、そう……で、何? さっきから、鬱陶しい……」
「つれないな、Ms.メシア。ダンモッド辺りが、貴女に失礼な態度を取ってしまったかな?」
「いや、俺は何も言ってねえよっ! なんか知らねーけど、ずっとこんな感じなんだよなぁ」
「そうか、悪いねダンモッド。さてMs.メシア、貴女はSランクにソロで辿り着いたそうだが……『魔術師』つまり、後衛だ。私のパーティーもSランクだが、魔法の後衛が足りなくてね。私のパーティーに、入ってもらえないだろうか?」
「拙者達とであれば、高ランクのダンジョンもかなり容易く攻略できると思うぞ……?」
私の誘いを聞いて、メシアはジロリと周囲を睨んだ。
苛立ったダンモッドが何か言う前に手で制し、私はメシアに目を合わせる。
「情報が古いね、Sランク冒険者のくせに……ワタシ、既にパーティーを組んでる……貴方達なんかより、素敵で強い……最高の相棒とね……だから、お断り」
「ならば、その人と一緒に来てくれないか? 貴女が認める程の冒険者だ、きっととても素晴らしい方なんだろう」
私の言葉を聞いて、メシアは馬鹿にしてくるように鼻で笑った。
エイロゥとビソーが睨みつけるが、メシアは全く動じていない。
私の後ろの何かを見て、メシアは意地悪そうに笑った。
「遅いよ、ローブ……!」
「ローブ、だと……?」
「お前ら、メシアに何してんだ……?」
振り返るとそこには、私達が追放した『盗賊』ローブの姿があった。
ここでも、ローブか……っ!




