女騎士を応援する魔術師【メシア視点】
ワタシの前には、鎧を着たシーリアス王女が居る。
しなくていいと言ったのだけど、目の前で正座をしていた。
ローブが言うには、ワタシ達が暮らす王国でとても頑張っている人らしい。
だけど……いや、だからこそワタシはこの人が許せなかった。
頑張っている人が、同じように頑張っているローブを悪く思うのが……違う気がする。
「ちょっと、聞いていい……?」
「な、何だろうか……?」
「ローブの事、どう思う……?」
ワタシが問いかけると、シーリアス王女は顎に手を当てて俯いていた。
悩んでいる……という事は、もうローブを嫌ってなさそう……?
まあ、水浴び場で裸になって抱きしめ合うくらいだもんね……ワタシでも、そこまで行ってないのに……!
さっきチラッと見たけど、胸大きかったな……ローブも、大きい方が好きなのかな……?
ううん、ローブは違う……街の中でも、大きい胸にあんまり視線行かないし……!
「自分は最初、ローブ殿を嫌悪していた。だが命を救われ、彼の内面に触れ……自分はその、メシア殿に言い辛いのだが……」
「ローブを、好きになっちゃった……?」
「っ!? なっ、何故それを……!」
ワタシがシーリアス王女の言い淀んだ事を当てると、分かりやすく驚いていた。
ハーティと乱入する前に聞こえた言葉と、とても辛そうな表情。
女の子同士だから分かっちゃう、シーリアス王女は……ローブに惚れちゃった。
「ローブは、とってもカッコいい……どんな事でも全力を尽くしてくれて、いつも相手の事を考えてくれる……魅力に触れちゃったら、【盗む】を使われなくても……心を盗まれちゃう」
「お、怒らないのか……? 自分にはローブ殿を恋する資格は無い。メシア殿の方が先に好きになっているのだ、あんなに嫌っていたくせにと非難されてもおかしくないのでは……?」
「ワタシが、シーリアス王女を非難……? ううん、しないよ……ローブを嫌うのも、ローブを好きになるのも……シーリアス王女の自由だもん」
それに真面目なシーリアス王女なのだから、既に自分が心の中で非難していると思う。
ワタシが非難しちゃうのは良くないし、それはきっととっても卑怯な事なのだ……同じ男の子に恋する、女の子として。
「自分の自由……ならば、自分は……」
「でも、気持ちを押し殺すのだけは駄目……!」
「うっ……!?」
「ワタシにも、さっき聞こえていたよ……ソルマから盗んでほしい、それは間違いなくシーリアス王女の本心……! ローブなら、きっと盗み出してくれる……遠慮して、身を引かないで……勝手にワタシに負けようとしないで……ちゃんとワタシと戦って……!」
「自分が、メシア殿と戦う? そんな事をしてしまったら父上や兄上、姉上に迷惑をかけてしまう。許される筈が……」
目を逸らして、言い訳をしようとするシーリアス王女。
ワタシは両手で肩を掴んで、こちらを向いてもらって視線を合わせる。
「シーリアス王女は、今まで自分を抑えてきたんでしょ……? ワタシ達は恋する乙女、だったら迷惑をかけるのは当然……! 家族にも、ワタシにも……勿論ローブにだって、迷惑をかければ良いよ……!」
「恋する乙女は、迷惑をかけて当然……自分がメシア殿やローブ殿を振り回して、本当に良いのだろうか?」
「うん、シーリアス王女……ワタシ達に、お願いすれば良い……! 依頼じゃなくて、お願い……! そのお願い、必ずワタシ達が叶えるから……!」
「お願いか……依頼ではなく、お願いか。メシア殿は、聞いてくれるか? ワタシの迷惑をかけてしまうお願いを」
シーリアス王女の瞳から、少しずつ涙が零れ始める。
今まで国の為に生きてきたシーリアス王女に、恋くらいは自分の為にさせてあげたい。
同じローブを好きになっているのだから、ワタシはシーリアス王女を応援する。
でも、負けるつもりはないけどね……!
「うん、勿論……!」
「ならば是非とも、お願いさせてほしい」
涙を流しながら微笑むシーリアス王女に、ワタシは力強く頷く。
それじゃあお願いを聞く為に、ローブを呼ばないと。
ワタシは遠くに居るローブに視線を向ける。
遠くから様子を伺っていたローブは、駆け足でワタシ達の所までやってきた。
「メシア、シーリアス王女。話は……って、シーリアス王女が泣いてる!? メシア、お前シーリアス王女に酷い事とか言ってないよな!? さっきの事だったら、悪いのは断り切れなかった俺で――」
「シーリアス王女が、とっても困ってる……助けてほしいみたい……!」
シーリアス王女の涙に戸惑っていたローブだけど、ワタシの一言で真剣な表情に変わる。
うんうん……やっぱりローブは、深く関わった人が困ってるのを……見過ごせないよね。
そんな優しいローブに、ワタシは恋をしているのだから。
「シーリアス王女。それは依頼じゃなくて、お願いって事で良いんですか?」
「ああ、お願いさせていただきたい。ローブ殿、自分を助けてくれないか……?」
「勿論です。俺の力でシーリアス王女を助ける事が出来るのなら、全力を尽くします。良いよな、メシア?」
「実は、提案したのはワタシ……ライバルの為に、全力を尽くす……!」
「メッ、メシア殿っ!? それはまだ秘密に!」
「ライバル……? まあ詳しい話は、ハーティの背中で聞きます。とにかく今は、王国に戻りましょうか」
ワタシの発言に少し首を傾げた後、ハーティの方に振り返るローブ。
その背中はいつも通り、頼もしくてカッコ良かった。




