女騎士に教わった剣術を習得した盗賊
再び訪れた森の中で、俺は10匹を超える狼に囲まれていた。
右手には片手剣形態のノーフォーム、左手は当然何も持っていない。
正面の狼が大口を開けて飛び掛かってくる。
「フッ!」
軌道を見切り、狼の口に左腕を噛みつかせた。
俺の能力値と熟練度の高い【物理耐性】が、肌に牙を食い込ませる事を許さない。
ノーフォームを一気に振り上げれば、飛び掛かってきた狼は2つに断たれる。
勇敢な1匹の死を悲しんでいるのか、殺した俺に怒っているのか。
周囲の狼が一斉に遠吠えを上げ、俺の方にほぼ同時に襲い掛かってくる。
「見切った!」
右からやってきた狼の方を向き、ノーフォームを薙ぎ払う。
迫ってきた狼を吹き飛ばし、その勢いで真後ろを向いた。
飛び掛かってくる3匹の狼に対し、俺は何も持っていない左手を向ける。
「【爪技】紫電勢爪!」
派生技を発動し紫色の魔力を纏って突進、3匹の内の真ん中を貫いて包囲から抜け出した。
地面をズサッと滑りながら、狼の群れの方へ向き直る。
俺を追いかけて飛び掛かる狼を睨み、地面を蹴って飛び上がった。
「【爪技】火焔爪!」
宙に居る狼の腹部に、全力で爪先を叩き込んだ。
【爪技】の殆どは手を使って発動するが、足を使って発動する技が少しだけ存在する。
だって足にも、爪は存在するのだから。
「まだまだっ! 【剣技】両断っ!」
狼を蹴り飛ばしながら体勢を整え、今度は前方宙返りで勢いをつけて真っ直ぐにノーフォームを叩きつける。
反転して迫っていた狼の1匹の頭を叩き割り、地面にドッシリと着地した。
「次、【爪技】地走り爪撃!」
左腕を一気に振り上げれば、5つの爪の軌跡が狼を切り裂く。
こちらに向かってくる狼を睨んで、俺も全力で駆け出した。
襲い掛かってくる狼をすれ違いざまに、ノーフォームで斬り伏せ、左手で引き裂く。
剣を振った勢いで体を回転させて後ろ回し蹴り、軸足で飛んで再び【剣技】両断を叩きつけた。
「これで最後! 【剣技】一閃!」
最後の1匹になっても飛び掛かってきた狼に、ノーフォームを水平に振り抜く。
襲い掛かってきた狼を全て倒し、俺は左腕で額に滲む汗を拭った。
パチパチと拍手の音が聞こえたので振り向くと、木に隠れていたシーリアス王女が姿を現している。
「見事だローブ殿、自分が教えた剣術を半日で習得するとは。更に剣術の中に【剣技】、そして何も持たない左手で【爪技】を組み込む。本来は同時に持つ事はないスキルを合わせた、君にしか出来ないオリジナルの剣術だ」
「ありがとうございます! シーリアス王女のおかげで、スキルに頼らない動きをしっかりと補えました」
「剣術の手数と速さを維持する為に、あえて【剣技】や【爪技】の初歩的な派生技ばかりを使う。囲まれてしまっても突進系で抜け出し、火焔爪と両断で空中でも派生技を繋げた。ローブ殿には間違いなく戦闘のセンスがあるよ、自分が保証しよう」
「そ、そんなに褒められると照れてしまいます……」
「フッ、自分は事実しか言っていない。良い時間だ、今日も休むとしよう」
「剣術が完成して、キリが良いですもんね。戻ったら試したい事があるんですよ」
「ローブ殿の試してみたい事か、君の事だから素晴らしい事なのだろう。楽しみにしても良いのかな?」
「はい、少しは楽しんでいただけるかと」
「それでは楽しみにさせてもらおうか」
俺達はゆっくりと洞穴に戻り、そして川の近くに来た。
ノーフォームを片手剣から、杖の形態に変化させる。
川の近くで俺が試したいのは、ベイマー森林で手に入れた魔法系スキルだ。
「【土魔法】プチアース」
川の近くの地面に杖形態のノーフォームの先を向け、派生技の名前を宣言すると地面がボコッと音を立てて凹んだ。
【土魔法】プチアースは盛り上がらせて相手を攻撃する魔法、応用として地面に穴を開ける事も出来る。
1回では足を踏み外す程度の穴しか作れないが、何度も繰り返せば……
「これは……人が入れそうな大きな穴になったな」
「【水魔法】を盗めていればもっと楽なんですけど、【土魔法】プチアース」
最後に川と穴に通路を作って繋げれば、水が穴の中に流れ込んでいく。
ある程度の量まで水が溜まったら、再びプチアースで穴を塞いだ。
「成程。ローブ殿が試したかった事は、水浴び場を作る事か! これは自分も入って良いのだろうか?」
「勿論です、むしろシーリアス王女に入っていただく為に作ったんですから。大きくは無いですけどタオルもありますし、プチファイアで体も直ぐに乾かせます。この辺りには魔物が居るので護衛として近くに待機しますけど、俺は目隠ししていますので安心してください」
俺がそう提案をすると、シーリアス王女は目を丸く見開く。
やっぱ近くで護衛しない方が良かったのだろうか?
でも傍に居ないと、魔物が怖いし……
「それならば、一緒に入るとしよう。安心してくれ、悪いようにはしないからな!」
「えっ、ちょっ、あのっ!?」
「良いではないか、良いではないかぁっ!」
「イヤアアアアアッ!」
服を脱がしに襲い掛かってくるシーリアス王女に、俺は情けない悲鳴を上げるのだった。




